ケータイのディスプレイに表示された名前を見て通話ボタンを押す。心底疲れ切ったようなナマエの声が耳に届いた。
どうやら巌戸台駅から連絡をしているらしい。暗くなって帰る道が分からなくなったようで、申し訳ないけど迎えに来て欲しい、とのこと。最後の方はしょぼしょぼと落ち込んだような小さな声になっていた。ケータイをポケットに仕舞うと、クローゼットにかけてあった上着を取って部屋を出る。階段を下りてラウンジを通る際、ソファに座っていた岳羽が声をかけてきた。「今から出かけるの?」との問いに、「ナマエが迎えに来てくれって」と答える。
「えっ、まだ帰ってなかったんだ…」
大方、引っ越したからと張り切ってポートアイランド中を探検していたのだろう。ナマエのとる行動は大体予想がつく。「暗いから気を付けてね」と声をかけてくるのに頷いて、分寮を後にした。
早足で駅まで向かっていたが、薄暗い中、一人で駅の外で待っているナマエを思い浮かべたら、やっぱり走ることにした。肺に冷たい空気が流れていくのを感じながら、ナマエの元へ。
今まで俺や岳羽と一緒に通っていたから地形や道順を覚えることを意識していなかったのだろう。本人はしっかりしようと心がけているつもりだが、どこか抜けている。心配になるが、助けを求める相手が俺だから、今は良い。
だけど、きっといつかは他に大切な相手を見つけて、俺を頼りにしなくなるんだろう。それが気の置ける友人ならしょうがないと思う。
けれど、心を寄せる相手だったら、俺はどうするんだろう。いつもここで分からなくなって、考えるのをやめる。ナマエが傍からいなくなったら、これからも生きていこうと思えるのだろうか。
駅に隣接した商店街、古本屋の前でナマエが待っていた。心細そうな表情でなく、背筋をぴんと張って辺りを見回していたのを見て、ほっと息をつく。
俺に気付いたナマエが笑みを見せ「理」と手を振り、俺も小さく手を振り返す。
ナマエは古本屋の方に向かって「兄が来てくれました!」と嬉しそうに声をあげた。「ああ!ナマエちゃん良かったね!」と腰の曲がった年配の男性、その人の妻なのか、小さな年配の女性が表へ出てきた。「さ、気を付けて 帰るんだよ」「お二人とも、ありがとうございました」おそらくナマエがお世話になったのだろう。自分も頭を下げる。
老夫婦とのやりとりを終え、ナマエがこちらに駆けてきた。「理、ありがとう」と言いながら安心しきったのか、ふにゃりとした笑顔に。
「別にいい」
首を振ると、珍しく隣に収まったナマエに少し驚く。そのまま歩き続けるとナマエは話を始めた。
「待ってる間におじいちゃんおばあちゃんのご夫妻が心配して声をかけてくれてね、閉店時間なのに店を開けてくれて…あ、後、菓子パンも貰ったんだよ!」
「良かったな」と言うと「うん!」と大きく頷く。暗闇の中でもナマエだけは眩しく輝いている。
この後、ポートアイランドをめぐった話をききながら二人並んで分寮へと戻るのだった。
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12/12のイベントにて配布した無配にて掲載。