※百合
美しく育った我が妹は私をいたく慕ってくれた。鈴を転がすような声で「お姉ちゃん」とくっついてくる。公子こと、きみちゃんが可愛くて可愛くって、目に入れても痛くないんじゃないの?と思う姉馬鹿であった。
今日もきみちゃんと一緒に学校へ登校し、一緒にお弁当を食べ、一緒にテニス部で汗を流して、一緒に帰る。まさにべったり。それでも、気心知れた可愛い妹ちゃんだから、私は全然かまわない。
むしろきみちゃんが迷惑していないだろうか。冴えない姉を憐れんで付き合ってくれてるんじゃなかろうか。きみちゃんは優しい。割と情けない姉だけど、「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」と笑って手を差し伸べてくれる。快活で、明るくて、向日葵みたいな子。
そんなだから、きみちゃんはかなりモテている。帰り際、おそらく男子テニス部の知らない子が顔を赤くしながらきみちゃんに「あの」と声をかけてきた。
きみちゃんは男子をちらと見た後、私の腕に絡めた腕をぎゅうときつくした。
「お姉ちゃんと帰るから、また明日ね」
何度目かのやりとり。男子がきみちゃんに近づく時、きみちゃんの横にいることが多い。いつも傍にいるから、男子への弊害にもなっているだろう。きまってきみちゃんは、彼らの告白を聞くことを避ける。
「ええっ!?は、話だけでも…」
「ごめんね?じゃあね」
哀れ、男子。きみちゃんが「いこう」とそのまま私を引っ張っていく。視線を感じ振り返ると、男子はきみちゃんが去るのを名残惜しそうに眺めていた。
今回も告白を躱してくれて、ほっとする。こんな美しくも可愛い女の子、誰も放っておかない。きっと、きみちゃんはいつか、きみちゃんのように美しく強い男と結ばれる。私は、その日が怖い。そうしたら、その男と過ごす時間が増えるだろう。きみちゃんがとられてしまう。子どもじゃないんだから、と自嘲しようとするも、笑えない。
なるべく傷つきたくないから、妹離れしないとなあと、きみちゃんが告白されそうになる度に、楽な方へ流れる気持ちが強くなっていく。
「ねえ、きみちゃん、好きな男の子のタイプとかある?」
私を引っ張るように歩いていたスピードを緩めて私と同じ速度で歩く。むぎゅうと体をくっつけるのは変わらず。柔らかな女の子の体に、姉ながらも少しドキドキする。
校門を出て駅までの並木道を歩く。今日も部活きつかったね、などと話していた中、脈略もなく本題をぶつけていく。好きなタイプ、さらには好きな男の子の話(いたら)をさせて、きみちゃんにその子の為にも姉離れしよ、私も妹離れ頑張るから、と言おうと思う。寂しいけれど、私達、ずっと一緒にいたいけど、きっと傍にいられないから。
「ん?お姉ちゃん珍しいね。恋バナでもしたいの?」
「うん、そういう気分。で、どうなの?」
「お姉ちゃんこそ、好きなタイプの人、いないの?人に聞くなら自分から話すのが筋ってもんじゃない?」
きれいな笑顔だった。大抵明るかったり、甘えるように可愛い笑みばかり。見たことのない表情を凝視している間に、質問を質問で返されてしまった。そして、もっともな言葉に、仕方なくうーんと思い浮かべようとする。
「…うーん、優しいのは勿論だけど、私にだけしか見せない表情がある…なんというか、ふんわり笑ってくれそうな人かな」
「へえ、そっか…」
きみちゃんは視線を落とす。何かまずいことを言っただろうか。慌てながら、「きみちゃんは?」と聞いてみる。
「私は…ないよ。好きな男の子もいない」
まさかの「なし」、そしてのシリアスな雰囲気にさらに慌てふためく。「今はなくたって仕方ないよ、きっといつか分かるよ」とフォローするも、きみちゃんは私の腕から手を離していた。顔を歪め、涙をこぼすきみちゃん。このフォロー駄目だった!何を言えばきみちゃんを傷つけなくていいのか分からず、「ごめん、きみちゃん」と謝ることしか出来ない。
「…急に変なこと聞いて、ごめん」
「どうして私が泣いたか、お姉ちゃん、分かる?」
うるむ瞳が私を真っ直ぐに見つめてくる。涙が流れていっても、それに気を取られずに、私だけしか見ていない。真剣な話になった。頭を絞って考えても分からない。項垂れながら首を振った。
「…分からない」
「そうだと思った」
きみちゃんは寂しそうに笑うと、「お姉ちゃん、私の事知りたい?」私の頬に手を添えた。
**
私にはお姉ちゃんしかいらない。男の子は嫌。お姉ちゃんじゃなきゃ嫌。知ってるよ、誰か、私に告白しようとする度、顔を曇らせて、深く呼吸しているの。お姉ちゃんは、私が誰かとくっつくの嫌なんじゃないの?それなのに、私から離れようとするの?
「好き、好きなの。私、結ばれるならお姉ちゃんがいい。お姉ちゃんじゃなきゃ嫌なの」
お姉ちゃんのやわらかな唇に口付けた。振りほどかれることはなかった。受け入れてくれたのか。驚いていて硬直しているのかは、分からない。
「お姉ちゃん、私のわがまま聞いて、お願い」
いつも、お姉ちゃんと一緒にいるためにわがままを言ってきた。
「きみちゃん…いいの?私で…」
顔を離すと、真っ赤になったお姉ちゃんが口を手で覆っていた。今度はお姉ちゃんが泣く番だ。