「弁当は作ったか、なら行くぞ」
聖処を後にする放浪者を慌てて追いかける。
なんでもいうこときいてあげる!の代償は「スメール周辺を探索するのに付き合ってもらう」だった。
あの後何度も「俺戦う力ないんだけど!?そんでも連れて行くの!?」と放浪者に確認したが、「僕が守ってやるから、ぎゃーぎゃー耳元で騒ぐな」と言われる始末。普段ツンツンしている放浪者のときめきポイントかもしれない。
しかし、何故外に連れていかれるのか。置いてかれてもワープポイントでスメールまでひとっとびだけどさ。
「あら、お出かけ?いってらっしゃい、二人とも。お土産話を楽しみにしているわ」
とても、とても嬉しそうなナヒーダがタイミングよく出てきて、手を振って俺たちを見送る。これは会話を聞いていたんだろうな。
苦笑いしながら、扉を開き、朝の陽ざしを浴びる。
「めったに町の外にでないんだろ。…いい、気分転換になる」
「まあたしかに、各地の街で食糧調達したりバイトしたりばっかりだったからねえ…」
地図を貸せ、と言われ、だいぶ手になじんだ地図を放浪者に渡す。
「目指す場所は、ヴァラナーラだ」
地図に指をさした箇所にはたしかにヴァラナーラと書いてあるが、あまり聞いたことがない地だ。
「ここか…まあ割と近い方だね。じゃあ行こう」
「どうして、と聞かないんだな」
「あ…!じゃあ、今聞こう。どうして俺と散策する気になったの?」
外に出ても逃げ回って戦力にならない困惑しか頭になかった。流れのままに問うてみると、放浪者は前を歩き出した。
「ただの気まぐれだよ」
「答えになってるのそれ?」
「さあ」
風の翼をもっていない俺に合わせてか、律義に階段を降りていく放浪者。どこを歩いていいものやら。ちょっと悩んだが、隣を歩いてみることにした。
世界樹に沿ったように作られた螺旋階段をてくてくと歩いていく。翼で一気に降りれたら爽快なんだろうなあ。
「スメール暮らしはどうだ」
放浪者、父親みたいなこと言ってきたぞ…?純粋に心配してくれているのだろうか。
「不自由はないよ。でも、そうだな…不思議なことは前に結構あったよね」
「不思議なこと」
「うん、みんな、草神…ナヒーダのことを役に立たない!なんて疎んでたのに、急に有難がったりしてさ。…それに、何度も花神祭を繰り返す夢を見たこともあったんだよ。体もしんどくなって、妙な夢だなあって思ってたけど、……全部空たちが解決したんだろうね」
花神祭のことについて尋ねてみた時のパイモンの慌てっぷりったら。…これまで空と渡り歩いてきた国は訪れる度に厄介ごとばかり起きていた。俺はなんにも知らないけど、空が色んな人から一目置かれているのを目にするから、そういうことなんだろう。
「ふうん……お前は関わろうとしないわけ?」
階段を降り終える頃に、放浪者に尋ねられる。力なく首を横に振る。
「俺はうまく戦えないから。…巻き込まないようにしてくれてる優しさだと思ってるよ。本当に別世界の一般人がテイワットに迷い込んだだけなんだもん」
――――――――
俺は防御や回復に特化した別世界の元素を持っている、とウェンティや鍾離先生は言っていた。だけど、違う世界の元素を使う俺は異質な存在で、テイワットにいるだけで体調を崩していた。
最初にテイワットにトリップ?した時も夢で見たようなラノベ展開!と興奮していたのも束の間、徐々に体力が奪われていき、行き倒れた所をウェンティに助けられたのだ。彼の仮住まいの部屋に運ばれ、風元素を含む紅茶を飲んだり、風元素の詰まったお香を炊いてもらって、ことなきをえたのだ。
それに、彼のライヤーで奏でる詩は不思議と聞いていて、心が安らぐのもそうだったが、体の調子も良くなったものだ。
ウェンティは最初は俺のことを不審がっていた。的確に別世界の元素使いとして処置してくれたことは不思議だった。だが、そんなことよりも、助けてくれたことに感謝してもし足りないぐらいだったが、やはり異世界の人間は異質だよなあ、なんて落ち込みながらも、出ていこうにも、死にそうになったトラウマから、彼のベッドを借りて暫く療養生活を続けていた。
彼は香を炊いた部屋にたまに帰ってきては、俺の様子を見て、お茶を出し、一言二言会話を交わすだけだった。その時間だけでも徐々に打ち解けることができた。
本当に右も左も分からぬまま、この世界に投げ出されたことを理解してくれた時、「ごめんね、警戒して」と謝られてしまった。
その後、体調も安定して、ウェンティからこの世界の元素の取り込み方、すなわちテイワットでの呼吸法を教わって、外に出ることが出来た。モンドの町を初めて見た俺はその異国っぷりにはしゃぎにはしゃいで…その後、ウェンティに異世界から来た友達として空(とパイモン)を紹介されたのだ。(ウェンティから出会いを祝して酒を勧められたが二人で断った)
彼の旅の目的を知った俺は、空と意気投合し、彼のサポートをしたいと思うようになった。いざという時は体調を崩してもいいから、元素力を使えば、彼らを守れる。(その時は使ったこともなかったけど)ウェンティは過度に使いすぎなければいいんじゃない?と笑顔で隣国へ送り出してくれた。とある紹介状を「もしもの時に」と俺に持たせて。
紹介状には宛名が載っていなかった。ウェンティはウェンティと名乗らず、旧き酒豪の友人よりと添えてあるだけ。
モンドは龍が町を襲っててんやわんやだったらしいが、璃月も璃月で、俺と空、パイモンが璃月に着いた頃にその地の神様が亡くなってしまった。
岩元素に満ちたこの地は、風元素を取り入れるのと違い、なかなかコツが掴めず、具合は悪かった。でもそれを悟られないようにしていた。
時折、戦いの前線に立つ空を回復したりして、さらに脳に空気が回らないような気持ちの悪さを感じた。
それでも、葬儀屋さんの客卿である鍾離先生とともに弔いの儀式に必要なものを集める旅に同行した。その際、鞄から荷物を探していた時、紹介状が風にさらわれて、鍾離先生にキャッチしてもらった。「俺に宛てた紹介状のようだな」とごく自然に手紙の包みを破いた鍾離先生。中身を読んだ先生は、旅を一度中断することを提案した。
「 ナマエの体調が優れていないようだ」
「そうなのか!?お前、無理するなってあれほど言われてたのに…!」
「だ、大丈夫ですよ!俺は一緒に…」
「無理しないって約束しただろ?戻るよ、 ナマエ」
有無を言わさず、璃月のワープポイントまで戻ることになった。俺と空、パイモンは鍾離先生の屋敷に招かれることとなる。
「岩元素の取り入れ方を教える。風元素と岩元素が扱えれば、他の元素が色濃い地域でもやっていけるだろう」
そこで空やパイモンに隠していたのに、そもそも自分の持っている元素の力が別世界のものだとバレてしまうのだった。その元素力を使うと、体調が悪くなることも。……滅茶苦茶に怒られた。鍾離先生が岩元素の使い手だからか、ウェンティに教えてもらったようにスムーズに元素の取り入れ方を習得することができた。空曰く、「何だか先生から岩元素を取り入れられるよう、祝福を受けたような感じがした」と言っていたが、そうなのかもしれない。
しかし、そこからは完全な非戦闘員になることに…。
――――――――
「悔しくないのか?」
その言葉にはっと我に返る。
「力があるのに、知る術があるかもしれないのに、何もしないで黙ってみていていいのか」
「…心配をかけたくないからね」
「へえ、首を突っ込んでヘマしたことでもあるのかい?」
「そう、だねえ…」
――――――
一度だけ、雷電将軍の無想の一太刀から彼らを守ったことがある。
稲妻の宿で何も知らされずに、彼らを見送っていた毎日。雷電将軍自らがお出ましだ!と外から慌てた声がする。みなが銅像の前に走っていくものだから、嫌な予感がしてついていった。
縛り上げられた男、彼を助けるために飛び出す空の姿があった。なんとか縄を解いて逃げようとする空たち。だが、上空には――。
気付いた時には、血を吐いていた。体が悲鳴をあげ、回復をしても、体が自分の持つ元素に蝕まれ、悪循環になるだけだった。俺の名を叫ぶ空とパイモンの声が遠くから聞こえる。
あ、死んだな、と思い、意識を失ったが、何故か別時空?の雷電将軍に助けられていた。
「あなたはバルバトスやモラクスの加護を受けている―。私が貴方に手を下せば、彼らの怒りを買うでしょう。今はここで休養なさい」
何かを言ってた。だが、なんとか助かっている。虫の息で雷元素の色濃い場所から元素をとりいれる。時折回復しながら、でも起き上がることはできなかった。
何時間、何日経ったか分からない時空。やっと体を起こして座れるくらいになった頃、空が助けにきてくれた。…そして、彼は戦い、雷電将軍を退けた。
謎時空から解放され、泣きながら抱きしめられた。雷電将軍のもとに、部下だろうか女性が膝を折り、何かを告げ、俺たちは解放された。……目狩り令も徐々に取り下げられた。
「もう、無茶はしないで…」
涙を流す空、ひっくひっくと泣きじゃくるパイモンに、ごめん、と呟いた。
――――――
「うん、ヘマをして死にかけたから…もう首をつっこんじゃダメだなって」
「……本当か?」
ばつの悪そうな放浪者。「放浪者は悪いこと言ってないよ」とわははと笑ってみせる。
そうして、スメールシティから、外に足を一歩踏み出す。