見回りをしていた西風騎士団から「ヒルチャールが町の外に集結している」と火急の報が入り、駆けつける栄誉騎士ナマエ。彼らを討伐した末、町民を襲おうとした黒幕、アビス教団を発見。
秘境に逃げ込んだアビスの妖術師。ナマエと、仲間として同行していた鍾離、タルタリヤが敵を最深部まで追い詰めた所だった。
ナマエの片手剣を叩きこまれたアビスの妖術師は、あと一太刀で事切れるまで弱っていた。
妖術師が先ほどから攻撃を仕掛けてこず、防戦一方なのに鍾離、タルタリヤが違和感を覚える中、とどめをさす為、ナマエが妖術師目がけて駆けだした。
「これで最後――」
剣を振りかぶる際、妖術師が何かを唱える、目を見開くナマエ。だが、剣は仮面を貫き、妖術師は塵と消えた。
しゃがみ込むナマエに駆け寄るタルタリヤ。陰で戦いを見守っていたパイモンもナマエの名を悲痛に叫び傍に寄ろうとするも、鍾離はパイモンの足を掴んで動きを封じた。己の手の内で宙づりのまま暴れるパイモンをよそに、顎に手をやり考え込む。
「おい、鍾離!何するんだっ!」
「油断したねえ。相棒、大丈夫かい?」
ナマエの身を案じるタルタリヤたちに忠告する鍾離。
「術の影響を受けているかもしれん。公子殿、念の為距離をとって様子を見た方が……」
「タルタリヤ…?」
ナマエが顔を上げると、視線を合わせるようにしゃがんでいたタルタリヤと目が合う。その瞬間、ナマエの目が一瞬、桃色の光を帯びた。タルタリヤは目を瞬かせる。見間違いだっただろうか。鍾離は鍾離で物憂げにため息をついた。
「あれ…?一応無事だけど、なんか…」
「大丈夫かー!?ナマエ!!」
「うぐっ、パイモン、…うん、ありがとう。なんともないみたい」
鍾離の手を振り払い、ナマエに勢いよく頭突きをするパイモン。その際ダメージを負ったのは黙っておく。
「鍾離先生、心配は杞憂だったね」
パイモンとナマエのやりとりを見守り、その場を離れようとするタルタリヤ。その際、名残惜し気にナマエがタルタリヤに目をやったのを鍾離は見逃さなかった。
タルタリヤが隣にやってきた所で、鍾離はタルタリヤに耳打ちする。
「いや、ナマエは術にかかっているぞ」
「本当に?どこらへんが?」
「あれは、術にかかった者が初めて見た者を恋慕する術だ。要するに、今ナマエは公子殿に恋をしている状態になった」
「……は?冗談にしては面白いね、先生」
好敵手たる相棒が自分に恋をする?
タルタリヤは思案する。仲間になってからは、(公務の時以外)共に旅をしたり、タルタリヤの希望で刃を交えたり、絆を深めてきたと思っている。だが、恋愛感情という邪魔なものを抱いたことは一度もなかった。今までも、誰に対しても。
それに加え、勝手ながらナマエも自分と同じようなものだと思っている。彼女はお人好しで、仲間を大切にする。だけど、誰に対しても平等だ。そこが好ましいとは思うけれど、それ以上はない。戦いたい時は彼女の良心につけ込んで、好き勝手させてもらっている。
そんなナマエが、自分に恋愛感情を抱いたら、今までの関係が変わってしまうかもしれない。経験上、ナマエに飽きてしまうんじゃないか。
ファデュイの公子を務めるようになり、女性の部下を持つ事も少なくない。骨のある後輩が見つかれば、徹底的に指導して(自分が楽しく戦えるよう)強くさせていたのだが、彼女たちは、自分に恋に落ちると一気に腑抜けになってしまう。訓練中もドキドキするだとかで、指導が身に入らなくなる。それからが最悪で、「好きです」と告白されても、彼女たちに興味がある訳ではないのだから、「じゃあ他の幹部のとこに異動しよっか?」と言い渡すようにしている。ということで、「公子」の部下は男性だらけである。
「術は解けるんだよね?」
「あぁ、時間が解決するか、解呪条件があるかもしれないが、必ず解ける」
タルタリヤはそれを聞いて、ほっと胸を撫でおろした。元のナマエに戻ってもらわなくては困る。
「ならいいや!面白そうだし、ナマエとデートでもしようかな。先生はこの後仕事があるんでしょ?ナマエは俺がみとくから大丈夫だよ」
「……念の為、パイモンにも術について共有しておくぞ」
「先生のお好きにどーぞ」
パイモンを呼ぶ鍾離を横目に、再度ナマエに近づくタルタリヤ。ぴくりとナマエの肩が震え、呼吸が早まるのに目を細めるタルタリヤ。
「相棒、デートしない?」
「え?デート……?」
「そう、デート。おチビちゃんも連れてだけど」
ナマエの頬がほんのり染まる。勇敢な冒険者がただの女の子になってしまった。「うん、行く」と何度も頷くのに、吹き出しそうになるのを堪えた。いつものナマエだったら、ここは怪訝な顔をして「何か企んでる?」と言ってくるだろうに。
タルタリヤに恋をするナマエ。元に戻った相棒が発狂するくらい、弱みを握るのもいいかもしれない。それをだしに戦いに付き合わせるのもいい。タルタリヤは不敵に笑う。企みの笑みさえも、ナマエはぽうっと放心しながら眺めるのだった。
鍾離から事の次第を聞かされたパイモンがこちらに飛んできた。ナマエを守るように立ち塞がる。
「ナマエはオイラが守る!」
「急にどうしたの、パイモン?」
「う……とにかく、オイラもついてくからな!」
「うんうん、そうこなくちゃ」
楽しくなってきたタルタリヤ。鍾離もこちらにやってきた。その視線はパイモンに向いている。
「仕事の合間に解呪について詳しい知り合いに便りを送っておく。…頼んだぞ」
「おう!ナマエを公子の好きにさせないぞ!」
「へえ、楽しみだねえ」
タルタリヤはナマエの肩に手を置くと、慌てふためくのもお構いなしに秘境の転移装置に押し込んだ。「お先に秘境から出てるよ」とタルタリヤも後に続くので、パイモンも急いで後を追う。騒々しい者たちがいなくなり、鍾離は再度、深くため息をついた。
**
秘境の出口を出た3人は、まず西風騎士団に戦果を報告するためモンドへ向かうことにした。原っぱを踏みしめ、城を目印に歩き出す。
「え、えーと、アビスのやつらを退治できてよかったな、ナマエ!やっぱりオイラの相棒は頼りになるなあ~!」
「パイモン、無理して褒めてない?」
「そそそそんなことないぞッ!!」
パイモンと話すナマエはいつものナマエと変わらない。彼女の様子をじっと観察していると、その内ナマエが目を伏せ、視線をうろうろさせる。好きな相手に見つめられて恥ずかしいのだろう。パイモンもそれに気付くと、タルタリヤの頭に飛びつこうとする。だが、伊達にファデュイの公子をしていない。軽々と躱していくタルタリヤ。それを何度か繰り返し、ぜいぜい息を吐きながらパイモンが叫ぶ。
「公子!ナマエを見つめるな!」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
「減る!オイラの気力が減る!」
ぎゃんぎゃん吠えるパイモンの頭を笑顔で掴むタルタリヤ。
「二人とも何してるの」
ナマエは呆れながらも、微笑ましそうに二人を眺めている。その内地面が焦げている箇所が多くなる。炎元素の神の石を持つ誰かが戦っていたのだろうか。
タルタリヤが考え事をする中、モンド城下の石橋に辿り着いていた。そこらへんの鳥をスナイプ、鶏肉を拾いながらも、城門を通って騎士団本部を目指す。
そこに、赤い服の小さな女の子が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃんおかえりなさい!」
「わ、クレーちゃん」
「逃げ回る太陽」クレーがナマエの足にとびつく。きらきらした瞳がナマエを見上げる。
「クレーね、ジン団長の言うとおりに周りの敵さん、いっぱい倒してたんだ!」
「そうなんだあ、すごいね、クレーちゃん」
「えへへ!お姉ちゃんは敵さんの中でもつよーい人を倒してきたんだよね?クレーも一緒についていきたかったなあ」
残念そうながらも、ぴょんぴょん跳ねるクレー。
「クレーちゃんが周りの敵を倒してくれたから町の人も安心して過ごせたし、私も安心して敵を退治できたんだよ」
「本当?」
「うん」
可愛らしい会話にほっこりするパイモン…。タルタリヤはクレーの神の石を見て、へえと声をあげる。
「町の周りの地面が焦げてたのは君が戦っていたからなんだね」
「うん、そうだよ!」
「……タルタリヤ、クレーちゃんに変な事いわないでよ」
「まさか、こんな小さな子にまで「戦おう」なんて言わないよ」
「そっか、テウセルには甘かったもんな…」
パイモンとナマエはテウセルとおもちゃ屋さんとの出来事を思い出し苦笑いした。
「なになに?お兄ちゃんもクレーとドッカーン!ってしたいの?」
「まさかの乗り気!」
クレーは爆弾をおもちゃだと思っている節がある。ナマエは慌てて諫めようとしたが、子どもの扱いがうまいタルタリヤがクレーと同じ目線にしゃがみこむ。
「また今度にしよう?お姉さんたちは騎士団に報告があるんだ」
「そうなの?じゃあ一緒に行こっか!」