※山岸風花のいじめの原因について独自の解釈しています。ご了承ください。
「みんな、試験勉強ご苦労だった。中間試験の手応えはどうだ?」
少しして、まあまあですかね、とゆかりちゃんがぽつりと口にした。
ラウンジに集まる面々。報告があると集められたが、中間試験のことだろうか?
「そうか。…結城はクラスメイトを連れてきて勉強していたな」
「あはは…二人ともいい順位が取れるといいな、と思ってます」
風花ちゃんとバッチリ勉強したおかげか、そこまで躓く問題もなく、結果は上々だと思っている。
「そうだな。明日には試験結果が貼り出される、努力の結果も目に見えるだろう。…リーダーはどうだ?」
「…ぼちぼちだと思います」
いや、理はきっといい点をとるだろう。謙遜している訳ではなく面倒で当たり障りのないことを答えているだけだ…!
「伊織は?」
「お手上げ侍です」
ラウンジに冷たい空気が走る――かと思いきや、幾月理事長が爆笑している。とてもウケたようだ。
「そうか、伊織君はお手上げ侍か。ふー…いいフレーズを聞いた」
「あざっす!」
隣に座るゆかりちゃんが何、このやり取り…と苦い顔で呟いている。同感である。
「もし結果が良い者がいれば、私からちょっとしたプレゼントをやろうと思う」
もしかして、先輩からなにか貰えちゃう!?と心の中で思うのみ。さすがに口にして、期待されて結果が…みたいなオチだと、先輩を失望させることになる。
中間の試験の話題中、ずっと死にそうな顔をしていた順平君。幾月さんの笑いで少し心を持ち直したのか、勢いよくソファから立ち上がった。
「今、そういうこと言うんスね!?」
「何か不満でも?」
「そういうのって普通テスト前に言うべきっすよ!俺のやる気が…上がってたハズなのに…」
いや、あの期間だけ勉強しても付け焼き刃にしかならなかったのでは…と2年組(順平君は除く)はみんな白い目で順平くんに視線を向ける。
「そうなのか?では夏の期末テストも成績が良ければ何かやると、予告しておこう」
「うぐうああっ!」
「夏にもテストがあることにダメージを受けている…」
大袈裟にソファに倒れ込んだ順平君を無視し、桐条先輩は話を続ける。
「試験のことはさておき、本題に入るぞ。タルタロス探索に明彦が復帰することになった」
「真田君は桐条君と共にシャドウと戦ってきたからね。みんなにとっても心強いんじゃないかな」
幾月さんがいつものにこにこ顔をさらににこにことさせる。本題はこちらだったか!
「先輩、怪我が治ったんですね」
「頼りにしてます!」
私達よりも実戦経験がある人が復帰する。なんと心強いことか。ゆかりちゃんと共に喜ぶ。
「腕が鈍って仕方なかったんだ。リーダー、今度の探索には俺も連れていくように」
「…分かりました」
試験期間は勉強に集中していたため、思い切り体を動かしたくなるなあ。私も連れてってもらえるといいけれど、そこらへんは理の匙加減だからなあ。
「報告は以上だ。各自部屋に戻ってくれて構わん」
夕飯も食べ終えた面々。ぞろぞろと部屋に戻っていく。その中で順平君は「桐条先輩からのご褒美…」とこぼしていたが、多分想像している感じのご褒美は貰えないと思うよ!
私も部屋に戻ろうと階段へ向かおうとした。
「結城」
「はい?」
「用がある、まだ残ってくれないか?」
「大丈夫です」
桐条先輩に呼び止められる。その場に残っているのは、先輩方と理事長しかいない。
「勉強に連れてきていたクラスメイトのことだが…」
「風花ちゃんのことでしょうか?」
先輩は一呼吸おいて、こう言った。
「彼女も影時間に適正があるかもしれない」
「え、ええ!?」
「ペルソナ使い同士は惹かれ合うってところかな?結城君から、彼女にそれとなく声をかけてくれると助かるんだが…。人類を守る戦いに参加はしたくはないか、と」
理事長が時折見せる冷たい眼差しにたじろいてしまう。真田先輩も視線を落としながら、言葉をつなげる。
「戦力は多いに越したことはないからな…」
「…ですが、彼女は、それどころでは…」
「何か引っかかる所でもあるのかい?」
先輩方二人は複雑そうな面持ちをしているが、理事長は微笑みを絶やさない。
彼女がクラスメイトのことで揉めている、なんて本人の知らぬ所で話すべきでない。当人のことをぼかして理に話すそれとは違う。先輩方や理事長に伝えるのは、躊躇われた。思ったことを率直に告げる。
「…命をかけた戦いに誘うなんて、そんなの無茶です…。彼女には戦う理由がないじゃないですか」
「ふむ、そうだね…。ペルソナを発現できるか、って所から分からないしねえ」
理事長の言葉を聞き、解釈のズレがあるように思えた。
「勿論、仲間が増えるのは心強いのですが、危険なことに友達を巻き込みたくは…ないです…」
「まあ、そうだろうな…。すまない、急にこんな事を伝えて」
「いえ!そんな…」
桐条先輩はあっさりとひいてくれた。それに胸をなで下ろす。
「だが、山岸くんがシャドウと遭遇しないかの保証はないんじゃないかな?」
解放されると思いきや、理事長の言葉に、押し黙ることとなる。嫌な風に心臓の音が胸を響く。もし、本当に影時間の適性があるなら、伝えておいた方が良い――?でも、急にそんな選択を迫るなんて、あまりに酷だ。
「影時間でも象徴化しないことが分かれば、ハッキリするんだけどねえ。…結城君、彼女の友人なんだろう?一度分寮に泊まりにこないか誘ってみなさい」
「……」
「それが最善だと思うんだけど、違うかい?」
断れる理由がない。私は、近日中に風花ちゃんにここに泊まりに来ないかと、誘う役目を引き受けることになる。影時間中に彼女が象徴化するかどうか、確認するのだ――。
――――――
そして、放課後。
廊下に貼りだされた試験結果を見て、まず1位に結城理と書かれているのを見つける。やはり勉強していた…。
「弟さんすごいね…。あ、私も上の方に名前載ってる!ナマエちゃんのおかげだね」
「う、うん!良かった!あっ、私も上の方だ。やったあ」
「ナマエちゃん…?」
風花ちゃんと隣に並んで、混み混みの結果表を、後ろの方で背伸びしながら眺めていた。
挙動不審になっているのがバレバレみたい。うう、と肩を竦めながら、「ちょっと寮で色々あってね…あ、風花ちゃんは気にしないで!」と言い訳をしておく。
「なにかあったの?私で良かったら、話、聞くからね?
「ありがとう…」
でも大丈夫だから!と、無理やり笑顔を作ってピースを作る。心配される立場になってしまった。「そう…?私が言うのもなんだけど、無理しないでね」と風花ちゃんには全て看破されているのか、本気で心配されてしまった。
「泊まっていって」をいつ言い出せばよいやら。お互い試験結果良かったからお菓子でも買ってワイワイお泊まりパーティしよう、みたいなのは思いついた。それをすぐ言ってしまえばいいのに、私の中でどこか納得出来ずにうーんうーんと心の中で唸っている。
「ナマエちゃんは今日、テニス部に行くの?試験明けだからもう部活は始まってると思うよ」
「うーん、悩み中…。そういや風花ちゃんは文化部だっけ?いいなー…ってテニス部のキャプテンに怒られちゃうや」
のんびり会話を楽しんでいると、ばったり。渡り廊下でギャルたちと出くわす。あーと気だるそうにリーダ格らしき(風花ちゃんは「なつきちゃん」と呼んでいるこ)ギャルが、通学カバンの中に手を突っ込む。
「風花、これ、返すわ」
風花ちゃんのノートを廊下にばら蒔いた。
「あんま参考になんなかったけどね」
きゃはははと去っていく背中。散らばったノートをかきあつめる風花ちゃんを手伝う。そこにもう1人の手。思わず顔を上げると、同じようにしゃがみこんで淡々とノートを拾っていく理の姿があった。
「理…」
「…二人とも、ありがとう」
集めたノートを差し出す。理も、集めた分を無言で差し出した。受け取ったノートを重ねて、抱えて持つ風花ちゃんは、もう一度「ありがとう」と言ってくれた。
「もし、用事がなかったら、これからお礼に付き合ってもらっていい?」
「お礼なんて、そんな」
「私がしたいの。遠慮しないで、ね?…あっ、弟さんも是非」
理は遠慮のかけらもなくこくりと頷いた。
――――
巌戸台駅、オクトパシーにて。風花ちゃんにたこ焼きをご馳走になった。試験勉強のお礼もかねて、改めてありがとう、と微笑む風花ちゃん。
なんだか、気まずい雰囲気。
風花ちゃんは静かに語った。「ナマエちゃんはよく、私を助けてくれるよね、本当にありがとう」
「そんな、お互い様だよ」
「……あのね、私、夏紀ちゃんたちと本当は仲が良かったの。……今でも友達だって思ってる」
ごめん、過去のことを色々を思い出しても、全然想像ができない……。「そうなんだ」とは返事したけども。そんな顔をしていたんだろうな。風花ちゃんはふき出すように笑った。
「あはは、想像できないって顔してる。実は「家に居場所がない」っていう共通点があってね。家族と喧嘩して家を飛び出した時にポートアイランド駅の路地裏で夏紀ちゃんたちと知り合ったんだ」
うちの家、医者を目指せってうるさくて、家に居辛かったの。風花ちゃんは力無く笑う。
「夜に飛び出して夏紀ちゃんたちと過ごす時間、楽しかったな。でも、柄の悪い男の人たちといるのが怖かった。やめてほしいって思った。だから、いつまでも悪そうな人と一緒にいるのはよくないんじゃないかなって言っちゃって…」
それから、いじめられるようになった。言葉の続きが言わなくても分かった。
「私が悪いの、夏紀ちゃんたちの居場所を非難して、彼女たちを裏切るようなこと、言ったんだもの」
それから不運が重なり、店の角の商品棚にカバンがぶつかった拍子に、その中に商品が落ちたそうだ。
「万引きみたいになっちゃった所を隠れて見てた彼女たちに写真を撮られちゃったの」
タイミングが良すぎる……。理と顔を合わせた。
「それからは、……言いなりみたいな感じになってるんだ」
あはは…私ってドジだね、と泣きそうに微笑む風花ちゃん。その表情を見たら「そんなことない、風花ちゃんは頑張ってる…」と彼女は抱きしめていた。
お互いにぼろぼろ泣いてしまった。理は、それを見ながらたこ焼きを食べ進める。
「……どうでもよくない?」
「え?」
「友達だからとか、どうでもいいと思う」
早く警察に相談するなりした方がいい、と理は無感情に風花ちゃんに告げた。路地裏に屯してる不良と君なら、警察も君に味方するんじゃないの?
理の話はもっともだ。だけど、その言葉は風花ちゃんには届かないだろう。
「友達だからこそ、どうでもよくなんて……ないよ」
「……」
風花ちゃんの中にある複雑な思いを言葉にした時、理はじっと彼女を見つめた。
「そうだよ。どうでもよくなんてない。…それに、私だって風花ちゃんの友達だからね。ほんとに困ったことがあったら私に頼って欲しいな」
そういや、電話番号とメアド交換してなかった!と思い立ち、私たちはお互いの連絡先をケータイに保存した。
「あとさ、風花ちゃん」
「ん?」
うちの寮に泊まりに来ない?って言え!口を開きかけたところで、ケータイの着信音が鳴る。慌ててカバンを探る風花ちゃん。彼女のケータイだったのか。画面を見つめて、表情が強ばる。
「…ごめんなさい、ちょっと急用ができて、行かなくちゃ…。今日はごめんね、…ありがとう」
「風花ちゃん…本当に危険だと思ったら連絡してね…」
「うん、ありがとう」
ギャルたちに呼び出されたのかな。放課後に何の用があって…でも、風花ちゃんの友達だという彼女らを、私は傷つけられない。そうすれば、風花ちゃんが悲しんでしまうから。どうにか平和的に解決できないかな。話し合えないかな…。
「ねえ」
考え事をしながら冷めたたこ焼きを食べていたら、理から声をかけられた。
「なに?」
「なにか言いかけてたみたいだけど?」
「う…別に口外するなとも言われてないし、いっか…」
昨晩のやり取りを話すことにした。風花ちゃんに影時間への適性があるかもしれないこと。理事長はとても勧誘したそうだけど、まずは適性チェックから、と寮に誘って確認するよう言われたこと。
「ふうん」
「ふうんだけかあ。もうちょっとさあ~」
例えば、味方が増えたら頼もしいな、とか、か弱そうな子だから心配だな、とか何か感じなかった?とずいずい詰めると、「友達って、そんなに大切なのか?」と想定外のことを聞かれた。もちろん、「うん、とっても大切だよ」と答える。
理は言葉を探しながら口を開いた。
「ナマエの友達……なら、タルタロス攻略に参加するのは、……分かんないけど、なんかもやもやする…かも」
理の成長を感じた!テレッテッテーと順平君の声が聞こえた気がした。
「だよねえ!」とバシバシ背中を叩く。小さく「痛い」という非難の声をあげられた。
「やっぱりお泊まりさせても、理事長たちには有耶無耶にさせよっかなあ」
「泊まらせるのは前提なんだ」
「家にいるのが息苦しい気持ちは分かるからね」
「……そう」
家にいた頃を思い返していた。
私は雰囲気を変えるように慌てて試験の話題を話す。
「そういや理、試験一位おめでとう!そうそう、桐条先輩にご褒美貰った?」
「ん、貰ったけど…なんか、思ったのと違った」
「どういうこと?」
「戦闘に使えるスキルを覚えられるアイテムだった」
「そ、そっかあ…」