謁見

仕方なく城へ入ると、偉そうな人に謁見の間へ通された。
うわーいかにも王様っぽい王様だー。と繁々眺めていると、リオン君に腕をつままれる。「ここで膝をつけ」耳打ちされ、リオン君がしゃがんだ通りにしゃがむ。

「その方がミクトランのマスターの…」
「 ナマエミョウジと申します」
「そうか…、ホルム村ではよくぞ奮闘してくれた」
「いえ、そんな」

隣で膝をついているリオン君があっけに取られている。私が真面目ぶっているからだろう。オンとオフは分けるでしょ、こんな所じゃあ。

『フン、媚を売りおって…』
「今、セインガルド内で起きている事件について、リオンから話は聞いておるな?」
「はい」
「モンスターが現れたとみられる森や洞窟を捜索しても、いたのは魔物だけだった。手掛かりは、レンズを内に持っている人間、それか人間に化けた魔物かも分からないが、レンズの力を得ているのが犯人、という事だけだ」

王の目が私を捉える。

「犯人が次に狙うかもしれん所がある、そこを守って欲しい」
「…と、いいますと」
「あぁ、まだ周辺でひとつだけ襲撃されていない村があってな、犯人が来るのかは分からんが、念のためにそこに行って欲しいのだ」
「分かりました」

もう他の村は…。そう思うと共に、村を襲う事しか今までやってきていない犯人だから次に来るのはそこかも…っていう予想しか出来ないよなぁと王の指示に納得。

「リオンには、万が一ダリルシェイドを襲ってきた時の為に残ってもらう」
「はっ」

村に注意を向けている隙に、首都を襲う、その可能性も確かに否めない。
てっきりリオン君も来るのかなぁと勝手に思っていたものだから、少しガッカリ。

「 ナマエ殿には、兵と共に行動してもらいたい」
「分かりました」

…兵士さん達もいるのかーまぁ心強い仲間だといいけど。だって一般兵さんって大体ゲームじゃ使えな…おっと、お口チャック。
だからこそ私だけ行っても、その村を守れるのだろうか?不安が胸に渦巻く。

「その顔は、不安だと言っているな、心配するな、他のソーディアンマスターも…」
「只今到着しましたー!」
「なっ…」

女の人の声と共にバーンと扉を開けて誰か入ってきた。おもわず振り返ると、一組の男女が立っていた。(女の人が男の方を無理やりつれてきたような感じだけど)男の方は背中まである長い金髪に白い鎧を身に着け、いかにもロープレの主人公!みたいな感じの、きらきら青年。
女の方は対照的にショートヘアの黒髪。ちょっと肌の露出がある装備だ。どっちかというと、ツンデレっぽい。この人が声出したのね。
リオン君は絶句している。

「ねっ…姉さん!」
「え!?姉さ「この馬鹿を連れて来ました」
「馬鹿ってなんだよー!酷いじゃないか」

リオン君が姉さんって言った?今姉さんって言った?この人が?…回復系の人?この人が?あれ、イメージと違う、という驚きの言葉を遮り、お姉さまは早速キツイ言葉を発する。それに対して馬鹿と呼ばれた男の方は、軽くプンプンしている。
…何この夫婦漫才。

「…ルーティ殿、久しぶりだな、…彼が例の…」
「ソーディアンディムロスのマスターです」

…ん?

「それって…確か、密航者に奪われたんじゃ…」

おもわず呟くと、お姉さまはため息をつきながらこう言った。

「こいつがその密航者よ、まさかマスターの素質があるなんてね」
「ええー」

誰しもびっくりする展開になった。おいおい、その密航者さん、テレながら頭をかいてるよ。全然人からの視線を把握してないよ。

「…彼が、そうか…… ナマエ殿、彼らと行動してもらいたい」
「え、えー!?」

…え、えらいこっちゃ。

**

「リオン君とお別れしちゃうのかぁ」
「仕方ないだろ」
『頑張ってくださいね、任務』
「んーでも、ちょっと不安なんだけど」
『あの二人じゃな』

お姉さまはルーティさん。密航者はスタンくん。謁見の間を出た際にそう名乗られた。
私も自己紹介をし、早速行こうぜ!?とハラハラしながら言ったところ、ルーティさんに「リオンと挨拶していったら?」とニヤニヤ言われたので、こうして今彼と話している。
相変わらずリオン君はぶっきらぼうだし、シャルはいい子だし、ミクは余計な事を言うし…。

「…そ、そんな事ないじゃないー…」
「おい…僕はもう行くぞ」
「うん、じゃあねリオン君」
「……無事でな」
「やっだーフラグ建てないで下さい!」

私に死亡フラグを建設したリオン君は心配そうに私を見送ると、執務室に戻っていってしまった。私は先に入り口で待っている二人に合流する為、入ってきた道を戻る。

「こっちよ」

入り口付近に来れば、私に気付いたルーティさんが呼んでいる。
両人とも、腰にさしている獲物がソーディアンであるのは間違いなさそうだ。レンズの力を感じる。…私もそんな事分かるんだな、とちょっと誇らしくなったり。

「すみませんお待たせして…」
「そんな事ないよ」

スタンくんはどうやら密航をした癖にピュアらしい。非常にきらきらした目をしている。…二面性があるのだろうか。道中何故密航したのか聞いてみるか。
ルーティさんは…値踏みするように私をじっと見ている。な、なんだ?この目は…どこかで…ハッ、クリスさんだ!お母様だ!!

村までの道はルーティさんが案内してくれるようだ。先陣を切って歩いたスタンくんだったが、町を出る辺りで「うん、分かんないな」と言い出し、ルーティさんに先頭を譲ったのだった。
二人には聞きたい事がいっぱいあったので、話しかけようとしたけど、これから戦うかもしれないしなぁと思ったら、お口チャックを貫いたままだった。

『お前らしくない、口を噤んだままとはな』
「そうですけど…これから戦うかもしれないですしー」
「へえーそれが ナマエさんのソーディアンですか」
「スタンくん」

お口チャックを解き、ミクと話すと、隣を歩いていたスタンくんが、ミクに反応する。…何だか新鮮だわ。ミクの言ってる事が聞けるマスターってリオン君ファミリーしかいなかったから…。

「うん、ソーディアンミクトラン、あの天井王ですよ」
『おい字が違うぞ!!馬鹿にするな!』
「あの天上王ですよ」

今度は語尾に(笑)をつけるかのごとく言ってあげたら、ミクがプンプンわめきだす。

『…また相まみえる時がきたとはな…』
『ディムロスは掘り起こされてからはじめてお目見えなのよね?』
『あぁ…』

げっそりしたようなイケメンボイスがスタンくんの腰から聞こえてくる。
続けてルーティさんの腰からも、高い女性の声が聞こえる。
それぞれディムロス、アトワイトというんだっけ。

『ディムロス中将…貴様も地に埋まったままでよかったというのに』
「あぁミクの軽口に付き合うのは程ほどにしてくださいね、聞いてるこっちが面倒くさい」
『…凄まじいマスターにあたったな』
『…き、貴様ッ…!!』

言い返せない辺り、ミクもそう思っているのだろうか。
…まぁミクの言葉を皮切りに、人もソーディアンも話し始めたので、そこだけ感謝しつつ、私はとりあえず話しやすそうなスタンくんに話しかけるのだった。

「ねえ、スタンくん…どうして密航したの?」
『直球できたな』
「あぁ…俺、じっちゃんみたいな城の兵士になるために、黙って家出てきちゃったんですよ。丁度ダリルシェイドに出てる飛行竜があったので、それに乗ろうと思ったんですが、持ち合わせがない事に気付いて…」
「そうなんですか…それは…気の毒に…」
『憐れみられたぞ!スタン!』
「そんな事ないですよー、で、どうやってディムロスさんと出会ったんですか?」
「そこに丁度モンスターが襲ってきて、武器もなかったから倉庫みたいな所で武器になりそうなものを探してたら、こいつがいたんです」
「…モンスターが…?」

ちょっと待て、スルーできない事を言われたぞ。

「そうなのよ、普通モンスターは飛行竜を襲わないわ…だから国は、例の騒ぎをおこした犯人だって、今思っているのよ」

先頭で歩いていたルーティさんも振り返って、難しそうな顔をする。
飛行竜を狙ってか、それともディムロスさんを狙って…?
…考えても分からない。直接犯人に問いたださなければ。だからそれは後に置いておいて。

「そうなんですか…あ、じゃあお二人はどこで出会ったんですか?」
「何処も何も、飛行竜の中よ。丁度私が警備してたのよ。…ディムロスの護送をね」
「ロマンもあったもんじゃない出会いですね」
「ロマン?馬鹿言わないでよ!」

ルーティさんは顔を少し赤くして否定する。
…それはそれは最悪な出会いだこと。
城で夫婦漫才をしていた二人をみて、もしかしたらデキてるのかなぁと思った私の目は節穴だったのか?いやでも頬を染めるという事は少なからず意識は…。

「私も聞きたい事があるわ…あんたとリオンの事」
「私とリオン君…?一緒にお弁当を食べる仲ですよ」
「えー!?もっとなんか無いの!?」
「だって彼お城勤めで、私クエストやってますし、それくらいしか会えないですもん、何を期待してるんですかお姉様」

恋バナみたいになってきたぞ。リオン君と私ってそんなんじゃないのにね。

「むしろミクの方が私に対して好感度高いかも、いつも一緒ですしねー。…リオン君はなかなかガードが固いし」
『そ、ッそんな目で私を見ていたのか!?』

おい、天上王。声が裏返っているぞ。

「ははは、冗談だって」
「…面白いヤツね、あんたって…」
「よく言われます、なんでだろう?」

ただ吹っ切れているだけなのに。

「俺もリオンと仲良くしたいなー」
「本当?一段落したら仲良くしてあげてよー…あっでも」

スタンくんは女同士の会話を黙って聞いていたが、突然ぽつりと呟いた。
リオン君に、友達!なんていい子なんだ!是非なって下さいお願いしますって所で、…そういえば彼、密航はお咎めなしなの?という疑問が浮かんだ。

「犯人捕まえるのに貢献したら、密航は無かった事になって、兵士に取り立ててもいいんですって。王様は寛大ですこと」
「なんていい条件なんだー…よっしここは私も頑張って犯人捕まえなきゃね!」

スタンくんの釈放と、兵士へ出世、それとリオン君の友人になってもらうために!

村人に避難してもらったら、そもそも村の警備なんて話はなかった。
しかし村のお年寄りは急に避難しろと言われても動けない。子供達だけ都に避難させ、他の人々は家に居てもらっている。村はしんとしていた。十数人の兵士達が緊張感を持ちながら警護にあたっている。
それを見たら急に緊張してきてゴクリと唾を飲んだ。…でもこれだけの数の兵士に、ソーディアンマスターが3人いれば、魔物の襲撃もなんとか食い止められるだろう。そう思っておく。

「…いつ来るか、それこそ来るのか分からない敵ですっけ」
「えぇ。…でも油断出来ないですよ、おねえ様。黒幕の正体が分かってないんですから」
「そうですね。村の人を守るため、頑張らなきゃ!」

ルーティさんはいまいち緊張を感じていないのか、少し疲れた顔で腕組をしてそこらにあった岩に座っている。
スタンくんは熱血だ。熱い。全然現状を理解できていないだろうに、この熱さ。素晴らしくお人よしのようだ。威勢がいいだけな訳がないと思った。こりゃ絶対強そうと思った。だって主人公補正がかかってそうだもん。

「…周辺の魔物がいそうな所って探索したんですかね?」
「したみたいよ。でも、いたのは何の変哲もない魔物だけ…。最近じゃ狩っても狩っても減らないみたいだし、無理に減らそうとは思わなかったみたいね」
「……」

最近では魔物が出現する(いわゆるダンジョン)場所で、魔物は倒してもきりがないくらい出現するようだ。
私はあまりにも犯人探しが上手くいってない事実に不安な表情を隠し切れなかった。スタンくんは私を見るなり、励まそうと胸をたたいてこんな事を言った。

「大丈夫ですよ、 ナマエさん!俺が頑張って犯人捕まえますから」
「言うじゃない、スタン。じゃっアンタにぜーんぶ任せるわ。私は休ませて貰おうかしら」

ルーティさんはこれでもかという程、いやみな顔をなさった。む、これは。私は早速ルーティさんに思ったことを聞いてみた。

「……おねえ様。ひょっとして私に妬きました?」
「は!?何言ってんのよ!!ってか同年代っぽいのにおねえ様とか言わないでよ!」
「いや、なんとなく…」

私に素直に突っかかるおねえ様、これはスタンさんを意識してるんじゃあ、ないでしょうか。疑問が確信に変わる瞬間を感じた。
そんな中、ミクが背中から真剣な声を出した。

『 ナマエ。警戒しろ』
「なに…ん?」
「みんな、空気が変わったぞ」

スタンさんも緩んでいた顔が、真剣なものに変わる。私自身もわずかだが、嫌な予感を感じた。…じりじりと胸の奥が焼け付くような。
何かが上から来る。空を覆い隠すぐらい大きな影が、上に――。

「飛行竜!?」
「えッあれが…!?」

ルーティさんが叫ぶ。あれが飛行竜?それがどうして…――答えはすぐ分かった。
スタンさんとルーティさんが乗っていた、モンスターに襲われたものだ。これも操られているのだ。
飛行竜はバサ、バサと翼を羽ばたかせ、上空でぴたりととまっている。
その背中から、何かが落ちてくる。人だ。人が落ちてきていた。

「――なッ…」

村の周囲に、ぼたぼたと降ってきた。皆一様にうまくしゃがんで着地している。…どれもロボットみたい同じ動きで起き上がる。
その顔には表情がない。どこを見ているというのだ。その誰もが手に持っているものを見て、はっと息を詰めた。同じような剣を持っている。ゆらゆら体を揺らしながら私達にゆっくりと迫ってきていた。

「彼らも…操られている?」
「…こいつら、もしかして消えた村人じゃない?」
「本当か!?ルーティ!」
「分かんないけど…そんな格好じゃない」

確かに彼らはあの時の村人のような服を着ている。兵士も含め、私達が困惑している中だった。
飛行竜からゆっくりと、重力を無視したような速度で誰かが高笑いしながら降りてきた。その出で立ちから「あ、コイツが黒幕だわ」と誰しも思うくらいのだった。

「兵士ならびに、ソーディアンマスターの諸君。出迎え、ご苦労」
「あぁ?」

口調もそれらしい。降りてきた男は、色素のない髪に白い肌で、黄色い瞳をしていた。どこの中二病やねん、と誰か突っ込んで!お願い!服も何だかV系みたいなパンクなのを着てるし…。

「この地上の王となる、カイム様のお披露目にな!」

超ロングな編みブーツをカカッとならし、カイムと名乗る男が降臨した…。

「なんか…。ミクとかぶるキャラが来ましたね…」
『私はこんな下等っぽくはない!!』
「あんた達、漫才してる状況じゃないでしょうが!」
「あれ…?あれって…」
「スタンも何余所見してんのよ!」
「いや、俺の妹みたいな子がいるなぁって…いやまさかなぁ」

ソーディアンマスター達がぎゃいぎゃいしだした時。余裕ぶっこいてたカイムが「くくく」と笑い出し、そして…。

「何をピーピーピーピーわめいている!!王のお通りだぞ!!」
「あ、すんません…」

怒った。心は広くないらしい。