下校時刻、風花ちゃんと別れて図書室に寄ることにした。初心者向け料理本を探す為だけだったのだが、どうも、委員会決めを塞ぎ込んでいた時期に行われていたようだ。私は図書委員になったらしい。委員会の仕事としても図書室に向かうーー。
道中、溜息をつく。部活動にも入部しなさいとも先生に言われてしまった。バレー部、テニス部が空いているらしいので適当に見学しにいってどちらかに入らなければならない。
運動系しかないのか…、と気が重くなりながらも図書室の扉の前に着いたので、中に入る。
大人びた容姿の女性の先輩…?が同じ当番のようだ。貸し借りを管理するパソコンが乗った机の隣がひとつ空いている。よろしくお願いします、と名前を名乗りながら席に収まる。彼女は「敬語なんていいのよ、先輩でもないし」と微笑んだ。彼女は私と同学年のようだ。「じゃあ沙織ちゃんって呼ぶね」と名乗ってくれた名前を早速名前呼びにしてみた。嬉しそうに微笑んで「私も、ナマエちゃんって呼ぶね」と言ってくれた。
とりあえずパソコン操作を説明して頂く。なんとなくわかったような気がする。適度に本を借りたり返しにくる生徒がいるので実践させてもらい、なんとか習得。
空いた時間に「沙織ちゃんは料理出来る方?」と他愛の無い話をしながらも、どの辺りに料理本があるかと会話を終えたタイミングで周りの本棚を見渡す。
「何か探している本があるの?みんな帰り始めたようだし、見てきてもいいのよ?」
「本当?有難う沙織ちゃん〜!」
私の様子で察してくれたのか、沙織ちゃんは気が利くなあと感心しながらすぐに戻れるように急ぎながらそれらしい本棚から探すことにした。そして、基礎からの料理本を発見することができた。本を手に持って戻り、パソコンを操作して本を借りた。今日でも帰ったら理と一緒に見ようかな。…理もどこかの本屋か図書館で料理本をゲットしているのだろうか。
「だから料理の本を探してたのね」
「うん、そうそう」
今朝、見事に料理に失敗した事を流れで話していた。くすくす、と可憐な笑みの擬音が沙織ちゃんから聞こえるような気がした。
その後、下校の為のチャイムも鳴り、沙織ちゃんと駅まで一緒に帰ることにした。
「お話しできて楽しかったわ。また一緒にお仕事するのが楽しみ」
「私も楽しかったよー!おしゃべりメインで、また一緒にやろうね」
「えぇ」
嬉しいことを言ってくれる。いい子だ…。鼻歌交じりに寮へと戻る。
ラウンジには理が座っていた。もう着替えたのか私服の姿で、イヤホンをして音楽を聴いていた。机にはたくさんのお菓子があった。それに釣られて、向かいに座ると、勝手に物色しだす。和菓子メインか、ふむふむ。
「どっか寄ってきた?」
「古本屋」
「へえー!どこにあったの?いい本あった?」
「駅の近く。お菓子はくれた」
「お菓子くれたんだ!え、でも、それって、大丈夫…?」
「おじいちゃんとおばあちゃんが営んでる所だったから」
「あ…、じゃあ、大丈夫そうな気がするね」
だから饅頭やかりんとうみたいなしぶいお菓子が多いのね。「いっこ食べていい?」と聞いておく。頷いた理を見て即、手を出す。包装を破ると饅頭を一口かじる。じんわり甘い、おいしい。お菓子をくれたお二人も、このお菓子みたいに優しい人たちだったんだろうな。
「優しい人たちと知り合えたんだねえ」
「そう、なのかな」
「そうだよ。これからも色んな所に出歩いたり、学内でも誰かと知り合えるかもしれない。楽しみだね」
理が「楽しみ」とつぶやく。「そう、楽しみ」と繰り返しておく。苦痛でないなら、私以外の人ともしゃべってほしいし、仲良くしてほしい。きっと、寂しいだろうけど、それこそが兄弟の当たり前なのだ。
考えるように机の菓子を見つめる理に笑みを深めた。
「私も、図書委員ついでに図書室の料理本ゲットしたんだよねー!」
鞄の中の初心者用料理本を取り出す。
「帰りにパラパラ見たんだけどさ、材料もありそうだし、夕飯はこのページのオムライスでも作ろうかなぁって」
「そう」
「暇だったら手伝ってよー」
「うん」
「決まりね。…あ、そういやさ、同じ学年の図書委員の子と新たに知り合えてね!」
「…よかったね」
姉の会話に付き合わされる弟の図。沙織ちゃんについて説明し、仲良くなれそうで図書委員も割と楽しみになってきたーなんて言っている内に、重たいドアの開く音に振り返る。ゆかりちゃんが帰ってきた。部活帰りだろう。「おかえりー」と声をかけていると、部活に入らなければいけない事を思い出し頭を抱えたくなる。
「ただいま、…何?なんか思い出したような顔でもして」
「部活、何入ろう…」
「あれ、まだ決めてなかったの?結城君の方はもう決めてるんじゃなかったっけ」
「えー!知らなかった!何部に入ったの!?」
「剣道部」
やることはやってた理。いつの間に…。これも喜ばしい限りだ。……まあ、強制みたいなものだけど。
「ゆかりちゃあん〜弓道部は〜…やっぱ空いてないよね…?」
「うん、空いてない。私、荷物置いてくるね」
やっぱり!知ってたけど!バッサリ切り捨てられた私は、明日はバレーにテニス、どちらかに入る決意を固めるのだった。
「うう…私も着替えてくるか…降りてきたらオムライス作るよ!本見ててね」