転入~下校

 あれよあれよという間に朝を迎え、真新しいなんだかおしゃれな制服に袖を通す。部屋を出ると、ロビーで私たちを待っていた岳羽さんに連れられ、新しい学校へ。
 並木道の向こうに立派な校舎。桜たちが並んで花吹雪が舞う中、校舎へ歩んでいく生徒たち。私たちの方へ振り返って「ようこそ、月光館学園へ!」と微笑む岳羽さん。
 ここへ来る間、ポートライナー内で彼女とちょこちょこ話をしていた。清々しい朝だからかあの夜よりか警戒心は薄れ、自然な笑顔はでるようになった。話していて知ったが、岳羽さんも何年か前に転入してきたらしく、一貫校は周りになじむのが大変なんだよね、と苦笑いしていた。同じクラスだったら是非よろしくね、とお互い言い合った頃、やっぱり理はぼんやり移り変わる景色を眺めていた。岳羽さんが先程からしきりに会話に参加しない理を気にする素振りをみせているが、こういうやつなんだよ、と言っておくだけに留める。
 まず職員室に行った私たちは、担任の先生の案内でホールへ歩きだす。私の担任は中年の男性。理の担任は20、30代くらいの女性だった。女性の鳥海先生はさばさばした感じだが。こちらの担任はマニュアル通りというか、最低限の対応しかしない感じだ。
 先生たちに連れられ、他の生徒と同じように始業式の為に立派なホールへ着く。案内された席に座る。近くの座席に座っているのは同じクラスの人たちなのだろう。もしかして、と周囲を見回す。岳羽さんらしき姿がないか探したが、見当たらなかった。違うクラスなのかな、と肩を落とす。私を不思議そうに見ている隣の女の子と目が合った。

「す、すみません、じろじろ見ちゃって…」

 慌てて謝罪の言葉を口にし、肩をすくめる女の子。おとなしそうな印象を受ける。彼女に全然気にしていないと伝える。

「ありがとう…あの、見慣れない顔だなって思って…。もしかして、転入生の子ですか?」
「うん、そうそう。結城っていいます。よろしくね」
「…わたしは、山岸風花っていいます。こちらこそよろしくね」

 自己紹介をすれば、目を細めて穏やかに彼女も返してくれた。仲良くなれそうな気配。もっと話そうと口を開いた所で式は始まってしまった。口をつぐんで前を向くことにした。まずは校長の挨拶。うんうん、うんうん、と最初はちゃんと聞いていてが、「あ~」だの「え~」だのテンポも悪いし、聞くのもつらいほどに長くなっているのに、おもわず息をついた。真剣に聞くと疲れそうだ、と判断した私は、ぼけ~~っと今日のご飯どうしようかな、と食に思いをはせることにした。
 …昼食はどこかで外食してもいいかもしれない。ポロニアンモール?にお店が結構あると岳羽さんに聞いた。理も連れていこうか。夕食は寮でゆっくりしたいし、何か作るべきか。だったら昼食帰りに買い物…などと考えた所で長々とした挨拶が終わった。やっとか、という所で「次は生徒会長のあいさつです」とがよみあげる声。壇上に登ったのは、桐条先輩だった。彼女は生徒会長をやっていたのか。喋りだした先輩は、場慣れしているのかきびきびとした口調、無駄のない語句に思わず聞き入ってしまった。「悔いのない一年間を過ごしましょう」と答辞が締められ、彼女が一礼すると校長先生よりも大きな拍手が会場内に鳴り響いた。おお…これはファンになりそう…。実際、周りの女の子が「桐条先輩かっこいい…」「素敵…」と小声でささやく声、感嘆のため息が聞こえた。
 始業式が終わり、クラスの子が先程の先生に引率され一年間お世話になる教室へ。黒板に座席表が描かれている。同じクラスのメンバーが一堂に会した中にやっぱり、あのピンク色のカーディガンはいなかった。それより、肌が焼けているギャルっぽい子がいてびっくりした次第である。都会の学校。
 さっきからキョロキョロしている私の隣には山岸さんが座った。おもわずにっこりしてしまった、山岸さんからも微笑み返しをもらった。ありがとう。

「やっぱり隣だったね」
「ね!嬉しいな」

 お互い顔をあわせて頷いていると、先生の声で皆が席に着き、ガヤガヤも止まる。担任の紹介が始まった。その後恒例の転入生紹介の流れになり、私は先生と一緒に黒板の前に立った。「結城ナマエといいます。よろしくお願いします」と言った後、おじぎをするとぱちぱちと拍手が鳴った。
 その後先生は、隣の席だからと私に校舎の案内などする係に山岸さんを指名した。山岸さんは困る素振りを見せず、分かりました、と頷いてくれた。
 今日は始業式だけで終わり、明日の時間割を説明し、解散となった。

「山岸さん、ごめんね…面倒だろうに。案内頼んで大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。早速、ちょっと中を見て回る?」

 そういいながらも、ちらちらと教室の出口を気にしている山岸さん。やっぱり帰る相手いるんだろうなあ、と何気なくその視線の先を見ると、……見かけで判断したらダメだというのに、さっきのギャルの子とそういう感じの子達が不機嫌そうにこちらを見ている。ひ、ひえええ。

「う~ん…折角もう帰れるし、時間とらせるのは……案内は明日の休憩中とかに頼んでいいかな?」
「分かった。じゃあまた明日、結城さん」
「うん、また明日~」

 山岸さんは急ぎ足で彼女たちの元へ。「おせ~んだよ」「はあ、さっさといこ」「荷物もってよ風花」とギャル。えっ、怖い。戦々恐々とした面持ちでそれを見ていると。
私の目線に気付いた山岸さんは申し訳なさそうな笑顔で振り返り、手を振ってくれた。私も手を振り返したが、多分、うまく笑えていない。
 廊下を出て、私の視界からいなくなったグループ。なんだろう、あれは。…友達じゃなさそう。…無理やりパシリにしてるような感じが…。これは想像でしかないが、きっとそんな感じだと思う。だったら、山岸さん、それでいいのかな…?
 でも、私があーだこーだ考えてても仕方ないか…。気を取り直した私は、理はどこだろう、と二年の教室を見て回ろうと廊下に出た。隣のクラスを見ると、教室内で理と明るそうな男の子と岳羽さんが一緒にいるのを発見した。…あ、岳羽さん、理と一緒のクラスなのね。
 友達っぽい子もできたようなので一人で帰ろうかな、と踵を返そうとしたところ、「結城さんじゃん」と岳羽さんに発見されてしまった。

「あの子が転入生兄弟の女の子か!」
「話広がるの早すぎじゃない…?」
「俺の情報網を甘く見るんじゃないよ、ゆかりッチ」
 男の子と岳羽さんが話しながら教室から出て、私の前へ。どうも、と軽く頭を下げる。
「どーも、伊織順平でっす。順平でいいぜ?しっかし双子?なのに似てないのな~」
「あはは…よく言われます」
「って結城君歩き出してるし」
 理も教室から出ると出口の方へ歩き出していた。
「俺らも行くか」
「なんで私も順平と一緒に帰んないといけないのよ」
「流れ的に?それに校内きっての美少女と帰って、俺も噂されたいな~って」