長い道のり

「理も大型シャドウと戦った時、順平君を助けたくて頑張ってたよね。自分に誇りをもって。私すごい嬉しかったんだから…」

 返事がないことは肯定と取る。思わず笑みをこぼしたところで、もう神社が見えてきた。長鳴神社。パソコンで調べたところ、神社の御神体は常世長鳴鳥というらしい。「天岩戸に篭ったアマテラスをおびき寄せるため、常世長鳴鳥を鳴かせた」と神話に出てきた鳥のことで、鶏の古称である。へえ、ほお、とパソコンの前で唸っていた。理にもそのまま語ってみる。「ふーん」と返された。
 鳥居の前までたどり着くと、一礼して中に入る。

 公園も併設されているんだ。女の子が一人、ジャングルジムに登っている。…一人で大丈夫かな、といいつつ話しかける勇気はない。
 手を洗う所(名前が分からない)で柄杓からひんやりした水をかけ、ハンカチで手をぬぐう。そのままコートで手を拭きそうな理にもハンカチを貸す。
 本殿へ移動し、お賽銭入れに5円投げた。手を合わせて、目をつぶる。みんな無事にシャドウを殲滅!!みんな無事にシャドウを殲滅!!みんな無事にシャドウを殲滅!!お願いします!!流れ星じゃないけれど3回繰り返す。念は込めたので、これで大丈夫だろう。なんだか不安だった気持ちも和らいできた。
 長い事祈っていたせいか、隣の理が消えていることに気づく。あたりを見渡すと赤い鳥居の向こうのお稲荷さん…?に参拝しているのを発見した。お参りし終えたのか振り返ると、こちらへ戻ってくる。

 次は社務所でお守りを物色することに。交通安全や恋愛成就は違うし、健康祈願かな…と思っていたところに心願成就、と刺繍されたお守りを見つけた。これだ!とすかさず、手に取る。

「お揃いで、私たちとゆかりちゃん、順平君のも買おうかな。……先輩たちの分も買いたいけど」

 金銭面で、躊躇してしまう。私が買うべきは金運のお守りではなかろうか。

「買おうか?」
「え?いいの?じゃあ割り勘で…。ありがとう理」
「いい、さっき増えたから」
「はい?」

 私の手のひらからお守りを奪い、会計を始める理。取り出した財布から万札が何枚も見える。渡したお小遣い以上のお金がそこに。それに、さっき増えたって?と一人ぽかーんとしている所に、低い位置から声が聞こえた。先ほど一人で遊んでいた女の子だ。

「お守り買うんだ?」
「あ…うん、そうだよ」
「れんあいじょうじゅ?のお守り買ったの?カップルでしょ?」
「カッ…!?ち、違うよ!?」

 昼間だから無理だけどもあやうくペルソナを発動しそうになった。激しくカップル説を否定し、私達兄弟なの!ねえ!?と理にも同意をもとめる。控えめな頷きを確認し、ほらね!と女の子に笑いかける。

「そうなの?なんだ、つまんない…」

 つまらない…!?何気ない言葉だというのに、ショックを受けてしまう。カップルならば恋愛成就のお守りは買うものか、と、どうでもいい疑問も頭をよぎった。女の子はいまだ、私たちの傍を離れない。

「兄弟かあ…」

 思う所があったのか、ぽつりと呟いた言葉に、ため息もひとつ。そんなに残念だったのか。様子が気になって、声をかける。

「私たちが兄弟じゃない方が良かった?」

 私の発言に、彼女は私を再度見上げると、首を振った。

「ううん、舞子、ひとりっ子だから。いいなって思って」

 デジャブを感じて目を瞬かせてしまった。返事が遅れたことにより、女の子…舞子ちゃんが「あーあ…」と口をとがらせ、地面の砂を運動靴でいじり始める。機嫌を損ねてしまったかもしれない。同じ目線になるようかがむと、舞子ちゃんに話しかける。

「そっか、ひとりっ子か。…もしかしたら、この先、弟か妹かどっちかおうちに来てくれるかもよ?」
「……そうかな」

 言ってから、少し後悔。彼女を慰めようと期待させることを言ってしまったが、ご両親からしたらどうなんだろう。……ごめんなさい、ご両親!心の中で詫びると、耳障りのいい言葉を続けてしまう。

「そうそう、もしかしたらお姉ちゃんになるかもしれないじゃん、私みたいに!この子が弟なの」

 理が支払いを済ませ、こちらを向く。丁度いいので、弟だ、と理に手を向けて舞子ちゃんに紹介する。舞子ちゃんは目を丸くさせた。……何故?

「そうなの?逆かと思った。お姉ちゃんが妹で、お兄ちゃんが、お兄ちゃん」
「そ、そうかあ…」
「うん、お姉ちゃん、なんか抜けてそうだもん」

 子どもの真っ直ぐな言葉がナイフのよう。胸を押さえて蹲りたくなった。理が薄ら笑うものだから、思わずにらみつける。

「ねえ、お姉ちゃんたち。お腹すいてない?」

 兄弟の話題に興味を失ったようだ。唐突に話が変わる。傷心を引きずりながらも、悟られないよう笑顔で返事をした。

「あぁ…そういえばもうすぐお昼だっけ。たしかに、お腹すいてきたかも」
「じゃあ、たこ焼き食べに行こうよ!」

 名案と言わんばかりに表情を輝かせる舞子ちゃん。親御さんは?連れ出したら誘拐?頭の中で「いいのか?」とモラルを問う声が響き、理に視線で助けを求める。アッ、こういう所が頼りなさそうにみえる所以なんだろうな!慌てて、やはり私がビシッと聞くことにした。

「舞子ちゃん、お父さんとお母さんは」
「巌戸台商店街まで競争ね!」

 我先にと駆け出してしまった。かがんだままの私。理と再度視線を合わせると、「いいのかなあ…」と呟きながら、二人で彼女の背中を追いかけることにした。走っている途中に、お守りについて礼を言っておく。あとでお金を返さないと。

**

 課外活動部で鍛えていなかったら、凄い息切れしていただろうな。舞子ちゃんが「舞子、いっちばん!」とたこ焼き屋の前で手を振って待っていた。看板には「たこ焼きオクトパシー」と書かれている。香ばしいたこ焼きの香りに、いつお腹が鳴ってもおかしくない。「お姉ちゃん、舞子、たこ焼き6個入りね!」と舞子ちゃんがすり寄ってくる。年の離れた妹がいたらこんな感じなのかな、と微笑ましい想像をしてしまった。小学生にお金を払わせるのもなんだし、「じゃあここは私が払うね」と3人分購入。私たちは一人8個で注文。6個で足りない気がする。特に、理。こうみえて結構大食らいなのだ。

「ありがとうお姉ちゃん!舞子、ここのたこ焼き大好きなんだー!」

 3人並んで、お店の前のベンチに座る。パックに入ったあつあつのたこ焼き。そのまま食べるとテレビのお笑い芸人のようなリアクションを見せそうだ。中を少しだけ崩して、息で冷ましてから、「いただきます」と1個まるごと口に運ぶ。ほかほかくらいの丁度いい温度。ほおばっていると何か具材が入っていた。タコだと確信をもって言えない、何か。スタンダードなたこ焼きでなく、アレンジされた、お店オリジナルのたこ焼きなのだろう。いや、でも、もしタコじゃなかったらたこ焼きと言えるのだろうか。なんというか…。謎のたこ焼きである。

「ん~っ!美味しいね!」

 舞子ちゃんのとびきりの笑顔で、細かいことはいいか、と疑問が吹き飛んだ。美味しいからヨシ!隣の理を見ると、無表情で頬を膨らませながらたこ焼きを食べている。ハムスターみたいだなあと思いながら、も1つたこやきを口に放り込む。舞子ちゃんの食べてる様子を伺うと、まさにたこ焼きに夢中といった感じ。この店のファンだもんね。頬に手を添え、笑みを崩さず、1つずつゆっくり味わっている。
 みんなたこ焼きを堪能している中で私だけしゃべりかけるのもなあと思い、私もたこ焼きの味に集中することにした。やっぱり気になって、何の具が入っているか把握してみたかったが、なんとも言い難い…、表現できない味の具材にお手上げであった。
 最後の一つを味わい、飲み込んだところで、みんなもちょうど食べ終わったようだ。ベンチから立ち上がり、お店のごみ箱にパックなど入れて、我に返る。のんびりみんなでたこ焼きを食べていたけど、どんどん懸念事項が浮かんでいく。

「あの!舞子ちゃん、ここから家に戻れる?お昼ご飯、家で食べなくて大丈夫だった?あと、それから…」
「全部、大丈夫!一人で戻れるし、お昼も外で食べるって言ってきたもん」
「……はあ、なら良かった」

体の緊張が解けていく。息をつく私に、笑みを浮かべる舞子ちゃん。こういう時ってうざったいなあ、なんて思われそうだけど、心配されたのが嬉しかったのだろうか。

「お姉ちゃんってば心配症なんだから」
「お姉ちゃんじゃなくても、きっとみんな心配すると思うよ…!って、そういえば名前名乗ってなかったね」

 気を取り直して、かがんで挨拶。

「私は結城ナマエ、こっちは理」
「よろしく」
「うん!よろしくね!」

 理は棒立ちである。舞子ちゃんが気にしていないからいいけど。

「舞子、これから友達の家に遊びに行かなきゃ」

 それから、舞子ちゃんは学校の帰りに塾に行っていること、塾が終わったらあの公園に寄っていることを伝えてくれた。懐かれたのか、カモられたのかは分からないがよしとする。塾に通っていることを褒めたら嬉しそうな笑みをみせてくれたので、それでもう充分。

「お姉ちゃん、たこ焼きありがとうね!お兄ちゃんもまたね!」
「うん、またね。バイバイ」

 理とともに、手を振る。舞子ちゃんも手を振り返すと、商店街を駆けていった。なんともスピード感のある生活だ。遠くなっていく背中を見送った後、駅前から寮へ帰ることにした。

「舞子ちゃん可愛かったね」
「まあ。それに自由奔放だった」
「そだね。子どもだし、そんなもんだ。神社で参拝したからか、ご縁があったねえ」
「ん」

 しばしの沈黙。理が手に提げているビニール袋が、かさかさ音を鳴らしているのに、「そうだ」と声をあげた。

「そういや、お守りのお金、半額返さないと」
「いい。…たこやき奢ってもらったし、それで」
「え~そんなんで……」

といいながらも、計算。お守り600円が6人、3600円の半額は1800円か。たこやきはそれより低かったけど、1000円は超えている…。うーん。迷った挙句、お言葉に甘えることにした。

「ごめん、ありがとう……」
「ん」
「というか、理ってバイトしてたっけ?あのお金、どうして…」
「タルタロスで拾ったお金は俺が管理してるから。……お稲荷さんに増やしてもらったのもあるけど」

 最後の方は小声で聞き取れなかったが、タルタロスショックで吹き飛んだ。

「マジで!?えっ…結構お金拾ってきてるよね。えっ…ええっ…」

 うろたえる私。合計すると10万くらい拾ってたような…。てっきり帰った後、桐条先輩や理事長に渡してると思っていた。「俺たちが生活するのにこれから、お金の心配しなくていいんじゃない」と気楽に言う理に、「いやッそれはまずいんじゃ…」とさらにうろたえる私。

「装備を買うのに優先してお金は使ってる。残りは自由に使う」
「たまに薙刀を新調してくれたのって、そういうこと…。いや、でも…」
「桐条先輩も公認」
「そ、そう…。そうか…。なら、……ちょっとは貯金した方がいいかもね」

 自分でも驚くほど手のひらを返してしまった。理に鼻で笑われる。

「乗り気だね」
「公認なら、って強気になってきたよ…。将来のために貯金しないと!ふふふ…」
「悪い笑い方」
「そりゃあね!私達、きっとやりたい事がいっぱい増えるだろうから」

 しばらくして、「そう」と穏やかな声がした。理の表情をうががい見る。目を細めていた。何を想像してるんだろう?未来のこと?シャドウを退治して、高校、大学、卒業して就職…。私も明るい未来を想像してみる。考えるだけで、笑みがこぼれる。理もきっとそこにいる。あんまり表情を崩さないのは相変わらずだろうけど、きっと、笑いかけてくれる。ちょっと先に進んだところで、私を待っていてくれるだろう。
 理と同じペースで今歩いているのに、理は私より先で待っているというイメージがある。(私のペースに合わせて歩いてくれているような気がする)やはり自分が頼りないと思うのが根底にあるからだろう。並んで歩けるようにイメージしないとな。いや、寧ろ理を先導…。

「危ない」

 いつの間にか、電信柱が目の前に。手を引かれ、ぶつかるのを回避した。何やってんだと言わんばかりの呆れた目を向けられる。道は遠いかもしれない…。