ミョウジさんはリーダーを追いかけている。俺がそれを知るのは、共に探索するようになってすぐのこと。
仲間になったのだからと、月高のメンバーを理解しようと思い立つ。それならば先ず観察するべきだと、俺は外から月高メンバーの様子を見ていた。
まず分かったのは月高はうちのように、和気藹々と形容し難い仲だということ。人類を守るために戦っていると自負していたくらいだ。どこか重々しい雰囲気がある。特に桐条先輩と岳羽さんの間には何かあるように思えた。
皆その関係を崩さず、かといって歩み寄ろうとしない。様子をみたままの大人びた面子だ。
だから、 ミョウジさんの存在がより引き立って見えた。彼女はよく、微笑みながら皆を一歩引いたところから見つめていることが多い。彼女が殺伐とした空気の中和剤かのように、彼女を介して溝の深い三年組と二年組が会話をすることが多かった。
そんな彼女からまずは仲良くなろうとした所、彼女はリーダーである湊をよく目で追っている事に気付いた。
彼女はクールで天然なリーダーをよく気にし、その穏やかな視線にはより親愛を込めていた。
リーダーの気配に敏感で、談笑している中でも、部屋に入ってきたのにすぐ気がつく。その際、控えめに声をかけたり、彼と視線を合わせて視線で会話したり、合コン喫茶ではダンジョンの質問に対するリーダーの答え一言一句に耳を澄ませていた所なんて、可愛かった。アピールでもすればいいのに、先頭に立ってリーダーの隣で聞かずに、一番後ろでこっそり、頬をほんのり染めながら聞いていた。そんなに気になるなら隣に行けばいいのに、と呟けば、暫くして意味を理解したのか飛び上がって驚いていたものだ。
その時の、顔を真っ赤にさせて俺を見つめるミョウジさんが可愛かった。
湊が答え終えて、扉が開いた後で驚いてた点もなんとも恋に熱心な女の子といったところか、感心する。
「なっ、ななな…」
「先へ進もうか」
「あ、え、あぁ、はい…」
彼女に笑いかけると、首を傾げられた。慌てふためく彼女を通り越し、進んでいくと「き、気のせい…?」と後ろから呟きが聞こえた。気のせいではない。
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「…まだくっつかないんだよな、アレで」
「リーダーも気付いてると思うけどね…。何でさっさと付き合わないのか不思議」
「そうなのか…。まだ…」
第3問目でダンジョンを引き上げてきた所で、月高二年生の順平、岳羽さんにミョウジさんとリーダーは付き合っているのか聞いてみた。
二人ともため息をついた。まだなのか。早く手を出してしまえばいいものを。
「やっぱり分かりやすいよね」
「まあ…ナマエッチは誰にも気付かれてないと思ってるけどな」
「そうそう、…あ、私たちが気付いてるって事、黙ってあげてね」
「あぁ、分かった」
頷いたところで、廊下のむこうを湊とミョウジさんが歩いてくるのが見えた。ミョウジさんの笑顔がいつもより輝いて見える。湊の表情もどこか柔らかい。
ここにいる面子で顔を見合わせた。頷きあった。やっぱり。
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その後、6問程突破した後、一人、空き教室で深いため息をついているミョウジさんを見つけてしまった。
「な、鳴上くん!」
「どうかしたのか?悩み事でも?」
「大丈夫、なんでもないよ」
なんでもなくはないだろう。きっと、「質問の答えを聞くたびに心臓がバクバクしてつらい」という所だろう。ここの所一問一問答えを聞くミョウジさんの表情が凄い、苦し気である。質問の度に後ろで固唾を飲んで見守っている彼女。そして、素知らぬ顔で質問に淡々と答える湊を見ていたら、俺の方がやきもきしていた。というか…見てて世話をしたくなるような庇護欲に襲われてきていた。こうなったら俺が二人のキューピッドになってやる、と。
手近にあった机と椅子を引っ張り出す。
「鳴上君?」
「リーダーに言えない悩みなら、サブリーダーに吐き出してくれ」
「っ…本当になんでもないよ?」
「恋の悩みなら任せろ」
「!!」
合コン喫茶はまだまだ続く。答えもほぼほぼミョウジさんに向かっているのに間違いない。(多分本人はそうは思っていない)湊の運命の相手が決まったら、…間違いなく選ばれた二人は急接近するに違いない。それでダンジョンの終着がどうなるかはさておき。
「やっぱり、鳴上君にはお見通しなんだね…」
「あぁ」
ほぼ皆気づいていると思うが。
「えっと…いいの?相談に乗ってもらって…」
「俺が協力したいんだ。気に病まなくていいよ」
じゃあお願いします…。と椅子に座って照れくさそうにミョウジさん。膝に手をやって緊張している。まだ知り合ってすぐだからな。
俺も椅子に腰かけると、机に手を組んでまさしくカウンセラーな感じで話を聞こうとする。何事も形から入るべきだ。
「で、湊とはどれくらい進んでいるんだ?話せる範囲でいい」
「う、うん…。っていうか、やっぱり恋愛マスターなんだね。鳴上君」
恋愛マスター?それに話が変わってしまった。首を傾げると、「あ、いや!…女の子達に鳴上君のこと、聞いてみたんだ」と申し訳なさそうに肩を竦めた。
まだ彼女とはあまり時間をかけて話をしていない。俺がどういう人物か聞くくらい、別に気にすることはない。そう伝えると、有難う、と微笑まれた。
「そこで、俺が恋愛マスターだと?」
「うん!色々と…経験豊富だって。話し方とかも落ち着いてるよね。人と話慣れてるんだねえ。後他にも色々。番長って噂されるくらい男前、とか、気が利く、とか、料理がうまいとか!…あ、後妹さん想いとか!いいね、すごいね鳴上君」
誰が何を言ったのか気になるが、それは置いておいて。とびきりいい笑顔でめちゃくちゃに褒められると嬉しいものだ。「そんな事は無い」と手を振る。
「いやいや、みんなちゃんと見てるよ」
「有難う。…それで、湊とは今どんな感じだ?」
「あ、そうだね、有里君と、私かあ。普通にクラスメイトで仲間で…あ、私達みんな同じ寮に住んでるって言ってたっけ。たまに、自炊したおかずをあげるくらい、かな。友だちみたいな感じ」
元の世界では同じ屋根の下で暮らしているのか。それは仲が深まるチャンスが普通より多いだろう。
だが俺が見る限り…。
「そうか、…湊がアプローチにどこまで気付いているかが問題だな」
「アプローチ」
「あぁ、のんびりしてるから気付いているかな、と」
「そういう所がいいんだよ」
湊はクールな見かけだ。受け答えも冷静だが、たまにとぼけたような発言をすることがある。そんな時も変わらずポーカーフェイス。よく観察しないと何を考えているのかよく分からない、ミステリアスな雰囲気を放っている。時たま口から放たれる鋭い発言は、天然なのか、はたまた自覚ありか。…そんな我らのリーダーは、ミョウジさんの気持ちに気付いているのか。ミョウジさんは湊から自分をどう受け止めてもらっているのか把握しているのか。 ミョウジさんがさらりと真顔で手を握りしめて熱く発言をしたことはそっとしておこう。
「…ミョウジさんから見ると、湊は察しがいいやつか?」
「気が利く人だよ。黙ってみんなの事をよく見て、細かなところにもよく気付いてくれるし、必要のある所はずばっと言い当てて、まさに頼りがいのあるリーダーで…。…でも私そんなアプローチしてないよ。有里君は分かってないんじゃないかなぁ」
「アプローチしているつもりは無いのか…」
「うん?」
彼女も今言ったように、細かなところに気づくリーダーである湊は彼女の想いにも気付いているのだろう。実際、他校の俺達の調子も考えて探索を行っているのは実感している。編成メンバーにもそれは色濃く表れている。
「ミョウジさんは湊にどう思われていると思う?」
「やっぱり…ただの仲間の一人だと思う」
「そうだとしても、特別視されてると思う。外からみた俺でも分かるよ」
「あはは…そうかな?」
うぬぼれたくないのか、自信がないのか。ミョウジさんはかすかに暗い笑顔を見せる。自信を持て!君は君だ!などとここで言っても仕方ない。変わることができるのはミョウジさん自身なのだから。他人の俺が影響できるのは例えれば水面だけで、水面下、さらに奥底の性格の根本を変えるのは彼女自身の意思、気づきであろう。
「…俺はそう思うよ」
「んん、ありがとう…」
さて、それでは当初の悩みの相談に入ろう。
「……ミョウジさん、運命の相手の質問の答えを聞くたびに苦しいのは分かる。それでため息をついていたんだろう」
「ッ…なんでそれを…!鳴上君すごいね」
君をよく観察していたから、など、とてもじゃないが言えない。湊に聞かれたら確実に恨まれる。
ミョウジさんにきらきらしい目で見つめられ、視線を逸らしたい所だが、あえて微笑んでみせる。
「…おそらく、迷宮は最深部に近づいている。そこで湊の『運命の人』が発表されるだろう」
「…!!」
「今は苦しいが、運命の人が君だったとすれば――、そこで告白してもいいかもしれないね」
「こくはく!?」
「湊と恋人同士になりたいんだろう?待ってるだけじゃあいけない筈だ」
これからどうしたいのか、目標に向かい、道を探してもらわなければ。……湊から告白されるだろうけど。
「それに運命の人が君じゃない可能性もある」
「う、はい…」
「可能性だよ?そういう場合、諦めるか、追い続けるか。湊への思いをもう一度よく考えてもいいかもしれない」
意地悪だろうか?しかし考える事は悪いことでないはず。
「俺と一緒に考えてみてもいいんじゃないかな?」
「…鳴上…さん…!」
「悠でいいよ」