何をしよう。何ができる。鳴上君の言葉に、私は真っ先に、別の人が選ばれるパターンを思い浮かべた。ゆかりちゃん、風花ちゃん、アイギス、…エリザベスさん。だからといってきらきらした世界が終わるわけではない。それなのに、目の前が真っ暗になりそうなイメージしか浮かばない。そうなったら私は諦めてしまうのだろうか。…彼の好みじゃないからとすごすご逃げては2か月間ずっと想った事さえも無かったことになるのだ。
「諦められない、なあ」
「そうか…。案外タフなんだな」
頷いて微笑んでくれる鳴上君。心なしか満足そうに見える。私が諦めない事を望んでいたみたいだ。
「えぇ!…結構図太い方ですから!」
「きっと湊も喜ぶ」
「ん?そうかな…」
だったらいいな。身を縮めて頷くにとどまる。鳴上君は「じゃあ、違う子が選ばれた場合でもアタックしつづけるんだね」と再度確認してくる。当たって砕けるまで傍にいよう、もうちょっとアピールしよう。「うん!」力強く頷いた。
「明確に振られたら、じゃあ友達のままでいよう!って言うところまでイメージできるようになったよ…!有難う、鳴上君!」
「あ、あぁ…。それは良かった」
振られた場合のイメトレは完璧だ。探索に支障をきたしたら不味いので、せめて友達として笑いあえたらいいな。きっと有里君もそのままの関係でいてくれるはず。…それはそれで、とても悲しいけれど。
「じゃあ、ナマエが選ばれた場合はどうしようか?」
「ん?そ、そうだね…」
鳴上君に促され、想像して、考えてみる。……イメージしただけで幸せになった。なんやかんやであの棒読み音声で私が選ばれて、見つめあう二人。きっと有里君は「あんまり気にしないで」って困ったように照れながら言ってくれるだろう。有里君はきっと適当に答えてたか、…本当に好みのタイプを答えてるか、どちらかだと思う。そりゃ本音で答えて選ばれたら嬉しいけど!!どちらにせよ有里君なら相手に対して申し訳ないなあみたいな雰囲気になってしまうだろう。……うん?あれっ?運命の相手が特定のだれかになるように答えてる可能性もあるかも…?そ、それが私だったら。ふと思いついた考えに咄嗟に頭を振った。いや、それは、ない…よな?な、無い!!無いね!!
そんなことより、二人で見つめあったとしてもみんなの前だよね…!という事に気づく。だったら、ひっそり後で二人になるタイミングを図って…告白か!?…選ばれたならばいい感じの雰囲気になり、急接近の絶好のチャンスになるのは分かる。鳴上君が言っていたように告白、もアリだが、そんなにアタックしないで告白してもいいものか…。
「有里君に、告白、は…。うーん。そんなにアタックしてないのに告白したら、びっくりされるよね。」
「……まあ、ナマエがそう思うなら、そうかもしれないな」
考えるように額に手をあて、長考した後に、含みのある言い方をされてしまった。あれ、そうでもない!?
「なんか変なこと言ったかな…!?」
「いや、問題ない。…告白じゃなきゃ、何をしよう?何かアクションは起こすべきだと、俺は思うが」
「う…う~ん」
とりあえず妄想。運命の相手発表後、きっと最深部だからボスを倒した後…。帰れたかどうかわからないが、どこかでこっそり有里君を呼び出して二人きりになったところで、何をする。…「ナマエ?どうかした?」小首をかたげて私の言葉を待つ有里君。「あの、さっきの迷宮のことなんだけど」と私。「…あの答えの事を気にしてるの?…本当に、あまり気にしないで」きっと私が傷つかないようにやんわり気にしないでと再度言ってくれる。「いや、あのね!」と私。
「「運命の相手が私って聞いて、うれしかった」…って言うのはどうでしょう…!」
「……」
無言!!おもわず不安になり鳴上君の表情をうかがう。そういえば彼もあまり表情を変えない人だ。そのお顔は無を貫いている。
「鳴上さん…?」
「悠でいいと言った」
「いや、あの、……どうでしょう、…悠君」
スルーしようとしたけど、再度指摘された為、おずおずと悠君呼びへ。
「…ナマエ」
「は、はい!」
「正直ぐっときた…。俺だけかもしれないけど、うん、ぐっとくるよ」
「本当!?」
「ああ、言葉自体はチープだが、泥臭く実直な感じがナマエらしくて良い」
チープ…!?泥臭…!?けなされた気がしたが私らしくて良いとの言葉を頂き、持ち直す。
「ま、まあいいや!…じゃあ、これで行きます!!ありがとう~~悠君!」
「その後告白する流れになりそうだ。いい感じ」
「ッそ、そうですね…そうなっちゃいましたね…」
喜びもつかの間、その後の続きもある、というのに気付かされる。意図せずともそういう感じになりそうです。が、がんばれ私。未来の自分にファイトを送っていると、悠君が椅子から立ち上がって、お手上げ侍ポーズ。こ、これは…。
「これで湊を落とせるぞ、ナマエ」
「や、やったー!?」
二人で喜びのハイタッチ。気持ちの良い音が空き教室に響く。これまでは質問ひとつひとつにドキドキ、ハラハラして辛かったし、考える事もあまりしなかった。その場で思った事を思うままに実行してきていた。でも今はこれから先のことを考えると、ハラハラドキドキはまだあるけれど、それに加え…なんだか楽しみになってきた。これから先。アタックし続ける未来、告白する未来、さらにその先。うんうん悩むだけでなく、どうするか考える事はとても大事なのだと思った。それを教えてくれた悠君はすごい人なのだと思った。そこまで成熟した思考になるに至った経緯を是非とも知りたいものだ。人生経験か。恋愛マスターだからか。
「悠君、ありがとうございます。…人生の極意を教えてもらった気分…」
「俺は大したことをしていない。考えたのはナマエだ」
「そんなこと…あ、そういや悠君」
「なんだ?」
「いつの間にか私のこと、ナチュラルに名前で呼んでくれてるね…」
「…あぁ、そうだな。無自覚に呼んでいた。……なんとなく名前で呼びたかったからかもしれない」
うちのメンバーにも大体名前呼びだからな、と付け足す悠君。その要領で私にも名前で呼んでほしかったのだろう。月高のみんなも、悠君の事を名前で呼んでいたはず。本当に仲がいいメンバーだと思う。
納得していると、悠君がある一点を見つめて固まっている。「悠君?」と声をかけるも、視線は変わらず。ちょうど私を通り越した向こう側。不思議に思い、振り返ってみると…。
「有里君!」
有里君が廊下からこちらを見ていた。悠君同様、固まっている。