湊が教室の扉を開けてナマエ逹の所まで歩み寄る。目を細めて、固唾を呑んだ悠を見つめた後、二人へ向けて口を開く。
「…何してるの?」
「あーえっと…、ちょっと、悠くんに相談させてもらってたの」
ね、と顔を見合わせられれば、 悠も「あぁ」と頷いてみせた。悠は、ナマエが自分の名をおずおず口にした際に湊の眉がぴくりと動いたのを見逃さなかった。
「…でも丁度終わった所だ。折角だから二人で話していったらどうだ?」
「!?」
「そうだね、僕も丁度ナマエと話したかった事があるし」
「!?」
狼狽するナマエ。席を立つ際
捨てられた子犬のように見上げてくるナマエに悠は微笑んでから去って行った。その微笑みはなんだ、とナマエは頭を抱えたくなる。
悠が座っていた椅子に代わりに腰かけた湊はいつものような柔らかな顔をナマエに見せる。
「……有里くん、話したかった事って?」
「…うん、最近、悩みでもあるんじゃないかって思って」
「な、悩み…」
「見るからに元気なかっただろう。…でも悠に先越されちゃったね。…悠に相談して、解決した?」
「…うーん…話してスッキリはしたし、元気もやる気も出たよ。ただ…」
告白しない限り解決しない…。と頭の中で続く言葉。声に出してはいない。湊はナマエの言葉を待っていた。湊の真っ直ぐな目にたじろきそうになったが、しっかりと見返した上で、根本的には解決してないかな、と口早にぼかした言葉を述べた。
「…そう」
「でも、じきに解決するから。心配しないで。ありがとう、有里くん」
告白するのは、運命の人が発表されて、全てを終えてから。それまで待っていて、有里くん。ナマエは一人、うん、うんと頷いた。
しかし湊の一声により事態は急変する。
「その悩みって、僕には聞かせてくれないの?」
「えっ」
「一応リーダーなんだから、頼って欲しい」
頬杖をついてこちらを見つめる湊。固まるナマエ。
「…僕じゃ、頼りないかな」
「そんなことない!!…けど」
恋愛的な意味であなたの事で悩んでます!なんて言えるものか、何か代わりの…。逃げ道を探そうとした。
でも、ここで誤魔化していいのだろうか?悠の言っていたようにアクションを起こすチャンスかもしれない。二人きりだし、急接近できるかもしれない。
「恋の、悩みというか、ですね…」
顔が熱い。確かめるように頰に手をあてる。あったかいを通り越し、熱い。
もう湊の顔もまともに見る事ができない。
「片思いなんだよね。…結構前から好きになって、それを、相談してた…」
湊はそれを聞いてどう思っただろうか。そろそろと伺うように顔をあげれば、湊は慈しむように目を細めている。
「可愛いね、ナマエは」
湊が口ずさむように紡いだ言葉。自分に向けられたそれに、胸が高鳴る。なんで、可愛いって。
「それって僕への愛の告白みたいだ」
「こ、こくはく…!」
「だって、恋の相談だって言うくらいで、こんなに真っ赤になって頑張ってくれたんだから。僕の事が好きみたいに聞こえたよ」
そう思ってもいい?と湊は頬を染めてナマエに聞いてくる。
ナマエには、頷くだけで精一杯だった。
「…僕も、君が好きだ。…良かった」
微笑む湊。その笑顔が自分だけに向けられている。夢でもみているような気分だった。
「僕から言い出さなくてごめんね」
「え、なんで謝るの…?」
「君に苦しい思いをさせてたでしょう。…悠に相談するくらい」
「あ…でも、全然!そんなの気にしないでいいよ!…ほんとに」
…よかったあ、とこぼせば、安心して涙も溢れてきた。
指で涙をすくっていると、幸せそうに目を細めていた湊がそっと声を出す。
「…もしかして、君も僕を好きなんじゃないかなって思ってた」
「えっ…」
「でも自惚れてたら嫌だったし、何より勘違いだったら怖いと思って…」
「有里くん…」
「…湊って呼んで」
「え、ええ!?」
「だって悠には名前で呼んでた」
「あ、ああ…そうだったね…」
ーーーーー
結局は似た者同士だったのか。どちらも初々しい…。まさに青春。
少し心配でこうして去ったふりをして立ち聞きしていたが、もう心配はなさそうだ。
ナマエ、よくやった!あれでも立派な告白だ!(無自覚だっただろうが)と一人親指をたてれば、俺の話が飛び出してきた。本来は名前呼びにすることで、それを聞いた湊を焚きつけようと思っていたが、ナマエが菜々子のように兄心をくすぐってくるので名前で呼ばせたのもある。
湊の嫉妬は後で受け止める事にして、この場を今度こそ立ち去る事にする。
「あッ先輩!!こんな所で何してるんですか?」
「…覗き見してるように見えますが」
だが、りせと直斗に見つかり、気付いた湊の静かな怒りを受ける事になる。(ナマエもちょっと怒っていたが湊の比ではない)