黒幕なの…

「貴方が黒幕ですね。大人しくお縄につきなさい!」
「そう言われて、今まで大人しく従った奴がいるか?」
「確かに…」

V系の格好のラスボス(?)は、ふんと鼻をならした。くいと顎をあげると、村人達がすっと私達の周りで立ち止まる。どいつもこいつも同じ動きをしている。

「村人達をどうやって操ってるんだ!解放してやれよ!」
「俺みたいな神クラスになると、弱い奴らは皆かしずくのさ」
「自分で神クラスっていった!!ミクじゃあるまいし!!」
『私に文句でもあるのか!!』

スタンくんが主人公っぽい事を言う。それに悪役はまさに悪役の返し方。
私はおもわずミクをみつめてツッコミをいれた。

「ミク…?まぁいい。ソーディアンマスター3人もくるか、いいねえ…だが」

ぱちん、とカイムが指で音をならすと、村人達は武器を構える。それは剣、槍…お玉!?アレ!?お玉!?ピンクの服に金髪の少女はお玉を構えていた。…なんで!?

「やっぱりリリスだっ!何やってんだよお前っ…」
「え?知り合いですか?」
「俺の妹ですッ。…まさかリーネ村も襲われたのか?」

スタンくんが苦悩に満ちたような顔になる。自分の、故郷の事を言っているのだろうか。
だとして、妹さんまで攫われ、操られて、お玉持たされているなんて…なんて酷い話なんだ…!!私はおもわず口を手で覆った。

「おい、俺のセリフを遮るんじゃない!」

カイムはスタンくんが喋りだしたことに怒っている。あ、「だが」って次のセリフ言おうとしていたのね。分かります。

「…ごほん、お前達の相手は俺じゃない。この下僕達だ!!」
「もう形無しね…」
「お姉さまそれを言っちゃ駄目!プライドだけは高そうなんですからっ!」
「~~ッお前ら!跡形もなくぶちのめせ!!!」

おねえ様も白い目でカイムを見始めた。それがカイムの自尊心を傷つけたのか、奴は私達を指差し、余裕がなくなった口調で指示を出してしまったー。
村人達は一斉に私達に斬りかかってきた。私達はその場を走ってそれを避ける。

「おねえ様どうしますか!村人傷つけちゃまずいですよね!!」
「晶術使って戦って!出来るだけ弱いやつ!」

おねえ様はそう言うと、剣を振るう。太刀先から水がほとばしる。
その水を食らった村人は、後ずさりながら頭を抱えた。え?もしかして晶術で洗脳とけちゃう?私とおねえ様は顔を見合わせる。
私も試しにミクに手をあて、雷を放つ。あ、やっぱり頭抱えてる。

「…え、あの、すぐ解決できる糸口見つかっちゃったんですけど。カイムさん」
「なッ…!!馬鹿な、そんな…!!」
「本気で驚いてませんか!?悪役がそんなんでいいんですか!?」

あっけなさ過ぎる…。脱力して、少し落ち着きを取り戻す。
カイムはあきらかに動揺していた。…ううん。そんな簡単な話だとは思わなかったんだね。しかし、ある方を向くと、余裕を取り戻したのか、にや、と口角をあげてみせた。
おもわず私達は視線の先を見た。…驚愕した。
スタンくんと妹さん(お玉の子)が対等に渡り合っていた。剣劇で。

「リリスッ!!目を覚ましてくれ!!」
「……」
『どうなっているのだ!お前の妹はッ!!』

スタンくんの太刀筋は素晴らしい。やはり私の眼に狂いは無かった。主人公補正バリバリである。
しかし、妹、リリスちゃんも負けてはいなかった。その剣さばきについてきているのだ。
仕舞いには炎を纏わせたスタンくんの剣をお玉で受け止めている。マンボウも出している。…それは隠しキャラのような貫禄さえ感じられる…。
私達はすぐ加勢に入ろうとした。しかし、村人はまだいる。洗脳が解けきっていないものを併せて、ざっと20人くらいだろうか。彼らが私達の目の前を遮った。

「ッ…スタン!!もう少し耐えて!」
「分かった!村人達は頼んだ!」

お玉のラッシュを受け止めながら、おねえ様の言葉に返事するスタンくん。
その言葉を聞いて、リリスちゃんはうつろな目のまま口を開いた。え?喋れるの?

「お兄ちゃん私に黙って出て行くなんてどういうつもりよ!許せない!!」
「え、これ洗脳されてる?」

「まんぼうカモン!!」
「させるか!!」
「誰か突っ込んで!!私怨かもよ!!」

あまりのツッコミ所の多さに、胸が苦しくなった。おねえ様は私を無視し、村人に術を食らわせている。これなら、時間が経てばすぐ――。ドヤ顔でカイムを見ようとした。
しかし、私は驚愕で目を見開いた。カイムが空に浮いている。…上空で待機していた飛行竜に乗り込もうとしているのだ!こいつの方がドヤ顔ではないか。

「俺は真の目的を果たしに行く。さらばだ、踊らされたマスター達よ」
「あーーッ!!みすみす逃がすとか…!!ミク!!私も浮けませんか!?」
『知るか!…術を応用すればいけるかもしれんが、お前には――ッ!?』

術の応用。私はすぐミクに手をあて、妄想を炸裂させた。

「浮けッ!」

地面を突き抜けて、ものすごい勢いで湧き出る温泉のイメージ。
ミクのコアクリスタルが光った。足元がぐらつく。ぷしゃっと温泉が足元から噴出す。その勢いで、私は飛行竜まで飛んだ。カイムはぽかんとしていた。

「うげえビショビショ…何故風に舞うようなイメージにしなかったし私!!」
『……お前の想像力の乏しさのせいだろうが』
「あーはいはい、今は甘んじて小言をうけますよー」

空を飛ぶ+水晶術で、私の頭がこのようにしてしまった。チクショウ。おもに下半身が濡れ濡れである。ちなみに、今の格好は表面は皮装備だけど、中身は普通の服だ。

「…ここで決着つけなきゃ、ヤバそうですね」

乗っている飛行竜は悠々と空を飛んでいる。
視線を服から上げると、彼もすでに着地していた。カイムさんが考えるように顎に手をやっていた。

「私だけっていうのは心細いですけど。…やるしかないですね」

飛行竜の馬鹿でかい図体を考えれば、ダリルシェイドにつっこむだけでも、大変な被害になる。
私は早く決着をつけようと、飛行竜を操っているであろうカイムを倒すことに集中する。
飛行竜の背を蹴ると、カイムに向かってミクを構えながら突進した。
しかし、ぴたり、と動きがとまった。カイムはミクを軽々と握って攻撃を止めていた。力を込めて剣を押しているのに、びくともしない。
それに、相当な力で止めている筈なのに、奴の手のひらから血が一滴もたれていない。その事実に私の胸は煩いくらいに音を鳴らす。生命の危機に直面して、息がうまく吸い込めなくなる。
私がひーひーと情けなく息を吸い込もうとしているにも関わらず、カイムはしげしげとミクを眺めている。

「先程ミクと呼んでいたが、まさかミクトランがコアになっているのか?」

どう反応していいのか分からなかった。とりあえず離してくれませんか!その後どうしよう。逃げるわけにはいかないし、でもこのまま放置させたら間違いなく首都いっこ滅ぶし。私はこれからの算段に必死だった。
そんな様子の私を見て、駄目だこいつ…答えが得れそうにないな、といったため息を盛大についたカイムはミクに顔をよせた。

「俺をマスターにしないか?」
『なッ!!』

カイムの言う事に声を出して驚くミク。ミクを勧誘してるぞ、こいつ。
そりゃ、かつての天上王なる味方が出来たら、そら頼もしいわな。
…ってまずい!!ミクがそれに乗っちゃったら確実に私死ぬ!!必死に喉を震わせ声を出した。

「…ミク!!あんた、寝返る気じゃないでしょうねっ…!!そんな馬鹿げた事はやめ…ぎゃッ!!」
「うるさいな。お前には聞いてない」

カイムは何をしたのか、見えなかった。ただ、ミクを私から奪って、私を吹き飛ばしたのは分かった。空に投げ出されないだけ良かった。私は気付いたら竜の背中に生えているとげとげにつかまっていた。生存本能ってすごいな…。少し現実逃避したくなった。
だが、この状況は考えないと、死ぬ。私はふらつく体で立ち上がり、カイム達を見た。

「あんな力の無いマスターに使われるなんて、天上王の名が泣くぞ?…俺をマスターにしろ。そうすれば、お前の悲願を叶えてやるぞ」
『…呼びかけているという事は、ソーディアンの声が聞こえるのか』
「あぁ、聞こえるぞ。俺も選ばれた者だからな」

カイムは薄い唇を歪ませて笑う。

『…私のマスターはあの女。…それだけだ』
「へぇ、天上王様は力ない女に味方するものなのか。お前の協力が得られないなら、それでいい。だが、俺にはマスターの素質があるんだ。お前の力、使わせてもらうぞ」
『お前より、あいつはなかなかに面白い奴だ。…私が行く末を見たいと思うのは、 ナマエだな』
「!!」

カイムが会話に熱中している間に、私はミクにつかまった。
黄色い瞳を大きく見開かしている。私はそれに不敵に微笑んでみせると、至近距離でミクを使って晶術をお見舞いしてやった。
爆発を起こす炎の晶術。カイムはおもわずミクを離す。私はミクをしっかり抱いたまま、距離をとった。至近距離だったから、多少巻き込まれて傷を負ったが、結果オーライである。

『他の者に触れさせるなど、マスターの名折れだな』
「でも取り返したでしょう?終わり良ければ全てよし…あ、でも終わってないか」

フン、とミクがいつもより偉そうに鼻をならした。照れ隠しだと、私は思った。
しかし、状況は元に戻ったが、こちらに分があるとはいえない。…どうしたらいいのか。
私はちら、と下を見た。飛行竜が飛んでいる景色だ。…神殿の上を旋回しているように見えるのは、気のせいだろうか。

「ちっ…まぁいい。いつか手に入れてみせるぞ、ミクトラン。…話も終わった事だ、真の目的に移らせてもらおう」

服のすすを払いながら、カイムは目を細めた。まさか…この神殿に!?
勢いをつけた飛行竜は、一気に下降した。おもわず、とげとげにつかまる程の勢いだった。

『神殿に突っ込む気か!?』
「っ…!!やめろッ!!人が死ぬぞ!!」

「虫けらに価値なんてあると思うか?」

氷のようなカイムの声の後、飛行竜は神殿に突っ込んだ。