※男装夢主です
「学ラン着てるのに女子なの?えー…だったらやだなあ」
あぁ、女だよ。私が女子だったらやだ、なんて勝手に言われるのは気にしないようにしてる。面倒だしうるさい。変えようもないことをギャーギャー言うな。そんなことより、恭弥を支えたい。私の理想を叶えたい。そういう事だけを考えていたい。
「なにか言っているみたいだけど?」
「煽らないで。別にどうだっていいよ」
恭弥が意地の悪い笑みを浮かべている。いいのか?と言いたげなそれに、いいんだ、と突き返してやる。
女子制服でも着て登校してもいいのだが、いかんせん動きづらい、落ち着かない。だから恭弥の言うまま学ラン着て…、その結果がこれ。だとしても、腑に落ちない。
「恭弥と私が男と女だから恋愛してるみたいに言われるのは腹立つけどね」
私が男だったらそんな事言われないのに、という事実にも腹が立つ。男と女がいたら付き合うのか、お前の頭はお花畑か、と言いたい。
恭弥にも誰かと恋愛するという脳は無さそうだってのに。
「そうだね」
恭弥はきゃっきゃと去っていく生徒の向こう側を見つめているように思えた。
面倒くさいのかまともに取り合う気もないのかもしれない。
「私には分からない。分からないままでいい」
恭弥もそうだよね?
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応接室。ふかふかの革張りのソファに腰かけて、刺激を与えたチェックリストの現在の素行について資料をまとめる。段階を踏みながら、どの程度の行為で恐怖に屈服するのか。こういうデータは今後の活動に大事になっていくはずだ。どういった家庭に生まれてどういう人生を送っていたのか、なども調査させているので、反抗分子の傾向も分かっていくだろう。
ふいに応接室のドアが開かれる。ノックもないということは恭弥であろう。彼は私の隣に座ると、体を横に倒す。
「眠い、枕になって」
「はいはい、どうぞ委員長様」
膝に重い感触。突然の膝枕。…でもまあ、そんなに珍しくないから驚かない。またか、という感じが妥当である。
「また誰か咬んできたの?」
「気に食わなかった群れをひとつ…」
「誰かぐらいは認識していて欲しいな」
まあでもお疲れ、と労わるように髪を撫でてやる。照れたり、怒りもしないので、ちょっとつまらない。雲雀恭弥とはそういう人間である。
今度は草壁さんらしき足音。急いでいるようだが早歩き。そうだね、廊下は走っちゃいけないね。少し乱暴なノック音に、恭弥の眉をぴくりと動く。
「失礼します、お二人とも!黒曜中の騒ぎについて、調査報告があがりました!」
「騒がしいよ」
「草壁さん、恭弥は眠いらしいよ」
「それは…、すみません!では報告書をお渡ししておきます」
「そう、行っていいよ」
「失礼しました!」
草壁さんが去った後、封筒に入った書類にしぶしぶ(絶対しぶしぶだろうな)目を通す恭弥。一通り読み終わったのか、私に書類ごとパスしてきた。
「ん」
「うん、どれどれ…」
恭弥から差し出された報告書を拝見。最初に事件を聞いた時、名前を聞いてまさかと思ったけど、確かに面影のある日辻君の顔写真--と共に、おそらく彼がぐちゃぐちゃに暴行された写真も添えてあった。あらま、なんてこと。小さな頃の彼は純真な子だったと記憶している。
「あの日辻君が、そこまで恨まれるような人になっていたとは…」
「ナマエ、それを知っているの?」
「昔、空手やってた時にいたじゃん!本当恭弥って、興味ない人にはとことん興味ないよね…」
目の前で欠伸をしている人物に呆れながらも「この騒ぎが並盛に飛び火しないといいけどね」なんて呟けば「僕の邪魔をするならみんな咬み殺すだけだよ」と眼尻に生理的な涙を浮かべながら締めくくられた。まあ確かに、それで万事解決っちゃあ解決である。
「でもあの底抜けにお人好しだった日辻君がなあ」
「…なんだかムカつくな」
しみじみと思い出に浸っていれば、いつもより少し低い声色が下から聞こえる。恭弥は眉間に皺を寄せている。
「なんでさ」
「僕の前で知らないやつの事を話さないで」
「嫉妬してるの?あはは」
恭弥の抗議をはいはい、と片付けた後で、書類を再度じっくり見つめる。
犯行現場は黒曜ランド、その後、何故か黒曜中学の前に放置されていたようだ。通りがかった近所の人が見つけたそうな。犯行には不良グループが関与しているようだが、皆、口を揃えて「それぐらいむかついていたから」「公開処刑したかった」だなんて証言している。皆、そんなに日辻君を恨んでいるんだなあ。
暴行を加えた理由については「日辻から暴力を受け無理やり従わされていたが、仲間を集めて仕返しに日辻に暴行を加えた」という証言も記してある。
昔のやさしい日辻君の面影も重なり、気になったのもある。暴力による支配に失敗した例、というのも。
なにより、パズルのピースが微妙に違うような違和感を覚えた事で、この事件を調査することに乗り出すことにした。
「ちょっと気になるから私が直に調べて来ていい?」
「部下を育てたいからなるべく仕事を任せないと、って言ってなかった?」
「いーじゃん、黒曜側も色々隠してそうだし、リーゼント男が行っても警戒されるだけだもん」
「…言っても聞かないか」
「恭弥もでしょ。早速アポ取って訪問する準備するね。先生方に話を聞いたり、聞き込みもしてみよかな」
「勝手にすれば」
恭弥は拗ねたのかふくれっ面になった。体を起こすと向かいのソファにまわって、寝転がる。
膝が解放されたので足をぶらぶら伸ばす。ポケットから取り出したケータイに書類に載っている番号を打ち込み始めた。
****
「どうもありがとうございました!失礼します」
笑顔を作って職員室を出てすぐ、目の前に映った汚らしい有様に真顔に戻る。ここまで酷いとは思ってなかった。
訪ねた際は怪訝な顔をされたが、話していくうちに対応した教師の表情は解れていった。
あまり深く突っ込んでも答えないだろうし、相手に喋らせる。
「日辻君は、いい生徒だったんですけどね〜」
生徒会長で、この中学を良くしようとしてくれた。目の前にある壁の落書きも率先して掃除してくれた。たった一人で。
協力してあげなかったんですね、なんて言おうものなら絶対へそ曲げるんだろうなと思って言わなかったけど。
「まさか暴力に走るなんて思いませんでしたよ」
私が記憶する彼は空手は上手い方だった。だけども、ある程度成績をあげたところで空手の道場を辞めた。なんでも、やっぱり人を傷つけるような技を覚えるのは良くないと思ったからだそう。
日辻君の近所のお兄さんが荒れる前の黒曜で立派な生徒会長を務めていた。そんな彼に憧れるようになったからだ。その人のようにカッコいい人間になりたい!なんて言っていたのを覚えている。
「噂では六道骸をトップに据え、やり返したみたいですけど…。あ、六道?六道はねえ、ガラも悪くて、学校にも全く出席もしないクズみたいなヤツでしたよ…」