「これがかの有名なトリップなんでしょか…」
水(海水?)浸しの私は、早速異世界のモンスターに囲まれていた…。
実際は可愛らしい雀みたいな動物なのだが、えらく私をつついてくる。地味に痛い。血も出てきたよ。…目つきも鋭いし、これはマジでモンスターなのだと思う。
こういう時って、誰かしら助けてくれるもんだよね?
いきなり異世界来て死亡だなんて、どんなムリゲー?
それとも私自身でなんとかする系なのだろうか。選択次第では死にますって感じの。
「おらっ!」
早速行動する事を選び、先制攻撃、そこらへんに落ちていた貝を刺した。(※なるべく尖っているものを選びました)
肉を貫く感触、叫ぶモンスター。血が出ていないのがせめてもの救いか。…夢にしてはリアル?
刺す気力がいきなり失せたので、今度はパンチング。
やっぱり訴えられそうなモンスターの叫び声と生々しい感触。ゲームの主人公ってこういう事をしているんだ、と実感する。
**
「…気晴らしに外に出てみれば、なんだあれは」
『坊ちゃん…女の子がチュンチュン相手に頑張ってるんですよ!』
「それは見れば分かるが、何故水浸しで、あんな装備で、一人なんだ?怪しすぎるだろう」
『そんな事言ってないで助けましょうよ~!』
「いや、もう勝負はついているだろ」
最後の一羽を踏み潰し終わると、私は砂浜に座り込んだ。体中ベタベタしてるもんだから、砂がこびりつくけど構やしない。
モンスターは消えた代わりに、きれいな薄い、コンタクトみたいな物体になっていた。なんじゃこら。
そんなことより、所々出来た傷が痛い。血が滲み、終いには垂れていく。
…まてよ、痛いって事は夢じゃないって事?…これは私が作り出したゲーム夢じゃない…!?
…これからどうしよう。でも、考えたくない。膝を抱える。波の音が耳を抜けていく。…現実逃避するか、これからどうするかまじめに考えるかを天秤にかけることしか今は出来ない。あぁ泣きてえ。
「ヒール」
「お?」
突然目の前に影が出来た。
美声の回復呪文みたいなのが聞こえたと共に、なんだかありがたい光が私に降り注いだ。痛みがひき、傷口が塞がっていく。
僧侶の男性が助けてくれたんだろうか。思わず顔を上げる。
「あ…、有難うございます」
「別に、礼には及ばん…それよりどうした、こんな所で…っ!」
「?」
全然僧侶に見えない、むしろナイトみたいな美少年が立っていた。腰のベルトに剣をしまっている。
少年は、私への気遣いを言い終わらない内に、赤面してそっぽを向いてしまった。
パンツでも見えてたかしら、と、あらやだ恥ずかしいわ、みたいなノリで私は体育座りを正座にした。
『あー違う違う、服が透けてるんだよ』
「…シャル!」
「あぁ!そっちか、ごめんなさい」
見ると、薄い色のシャツだから、直につけている上の下着が透けて見えているではないか。
一応、恥ずかしいが仕方ない。不可抗力である。少年に謝っておく。手で隠すことしか出来ない。
少年の表情を伺うと、何故か口をぽかんと開けている。あれ?そういえば、教えてくれた声はどこからしたんだろう。ここには彼と私以外いないような…。
「…今、シャルの声が聞こえたのか」
「はい?…シャルさん?そういえばもう一人声がしましたよね」
『新しいソーディアンマスターの方ってことですか!わぁ!やりましたね坊ちゃん!』
「そうだな…父さんが喜ぶな」
話に付いていけず、剣の柄に手をやり微笑む少年を見つめていると、いきなり腕を掴まれた。
「はい?」
「僕のち…知り合いにあってもらう、いいな?」
「はあ…」
何故?と思いながらも、町に連れていってくれそうなので素直についていくことにした。
こんなきらきらした目の子が悪い事なんて考えてなさそうだし、大丈夫だろ、多分。
しかし、いいのだろうか、服が透け透けの女を父親の元に連れて行くなんて…。面白そうなので、言わないでおこ。
**
「あはは」
「……」
ここに来て、初めて笑った。
この子、興奮して本当に町までそのまま連れてくもん。途中で気付いたシャルさんに言われて、「あっ」て気付いて、慌ててどっかで上着を買ってくれた。
「気付いていたなら、言えばいいだろ…」
「どうして?そうしたら貴方が服を買う羽目になるんだから、普通言えないでしょう?」
私はあなたの為に気を使ったんです。どや、と微笑むと、少年はため息をついた。
「私一文無しですしね」
「えっ」
「あと、ソーディアンマスター…って何ですか?剣と喋れる事?」
「……知らないのか?」
さらっと私の悲しい現実を言ってあげた後、疑問をあげてみたら驚かれた。ここでは一般常識なのだろうか。
「…いや仕方ないな、教養のある者しかしらない事だった」
ナチュラルに”馬鹿だから仕方ない”と言われてしまったー。
何だか可哀相な目で見られるようになってしまったが、仕方ないね。
「まずソーディアンの説明からだな」
服屋さんから出て、歩きながら(時折黄色い声と共に悲しみの悲鳴が聞こえる)彼は早口で説明していく。
ソーディアンとは古代にあった戦争で(天地戦争とか言っている、頭が痛い)劣勢だった側が発明して、優勢側をせり返して負かした、すごーい兵器らしい。
そのコアクリスタル(まるいところ)には、扱っていたものの人格が投射されていて、まさに振るえば一心同体そのもの、という訳らしい。
「そんな話って…」
「今の技術では信じがたいが、シャルがその証拠だ」
続けてマスターの説明も…。昔は中の人と外の人が同じ人物だったからか、意思疎通が言葉を介さずとも出来たらしい。で、その能力が血筋で引き継がれて、ごくわずかな人間は、こうしてソーディアンと会話が出来るらしい。おかげで他の人間には独り言を言っていると思われるとかなんとか。
「最後のは君自身の体験談みたいですね」
『そこには触れちゃ駄目ですよ!』
ああ、そうごめんなさいね、と謝れば、少し顔が赤くなった少年。
「…ふん、そういえばお前、僕の名前を知らないみたいだな…。『君』と親しく呼んでいい許可なんて…」
「ええ、知らないけど…どうして?気安く呼ぶのに本人の許可が必要なんですか?」
捻くれた子。他人にそんな事を言えるのって逆に凄いぞ!
自分の考えを言ってやると、言葉を詰まらせた。…ちょっと意地悪な事も言ってやろう。
「…それに私のほうが年上だろうし、背もおっきい」
「!お前…ッ」
「あーそうそう私はナマエっていいます。道案内よろしくお願いしますね、剣士様」
面倒だったので言葉を途切るように名乗って逃げてみた。
「……」
「あれ、名乗ったのだし、名乗り返してほしいなあ」
『もう!坊ちゃんを煽らないでください!』
「ちっ、……リオンだ。リオン・マグナス」
「へえ!カッコいい名前ですね!」
「ふん」
『…でも、超有名人の坊ちゃんの名前を知らないなんて、…貴方、どこの人なんですか?」
無性に「いい質問です」と言いたくなった。鋭いなこの剣…剣だけに…!…すまんかった。
「色々ありまして、世間のことにちょっと疎いんですよ」
『結構、変な子だなあ…』
彼の父親に紹介してもらい、これをステップに色々助けてもらって衣食住安定!!フラグが立っているのを「トリップしちゃったんです」なんて相手にとって意味の分からない事を言うことで無駄には出来ない。
幸薄そうに微笑んで適当にぼやかせば、的を得た言葉がかえってきた。ち、ちくしょう!
「そうだ、…びしょぬれで素手で戦ってる馬鹿を変人と言わなくてどうする!」
「……分かるけど、もうちょっとソフトな表現にしてほしいなあ…。変人はちょっと…」
『一応は認めるんだね!!』
「はいはい、正論、まさに正論だ。さぁお家へ案内しておくれ」
『凄い嫌なんですけどー!!』
ぐいぐいと押して押して、彼に家へ案内させる。言いあいをしながらも足は進み、あっという間に彼のお家の玄関だ。
眺めてみると、西洋風だからかそれなりに立派な感じがする。期待大である。
「さぁリオン君、私をお家にいれておくれ」
「うるさい、今もの凄く後悔しているんだ…!黙ってろ!」
『もう坊ちゃん、興奮して連れてきたのが嘘みたいですね!』
リオン君は私を紹介させるか否か、家の前で悩んでいる。後悔なんて言ってるけど、その顔は悩んでる、と信じたい。
ここは揺さぶりをかけるか、機嫌をとるか。
まぁ私としては…。
「私がいないと困るような事があるんじゃないんですか?」
「っ!…断じてそんな事はない!」
「ならどうして、お父上にそんな嬉々として報告にいこうとしたんですかねえ」
「父さんの話は出してないだろ!」
『坊ちゃん、もろバレです…』
揺さぶるのがとても好きです。
悪い笑い方をしていると、とある婦人がこちらへ向かってきた。
「あら?エミリオじゃない、なにやってるの?」
「…リオンです。クリスさん」
「…貴方をそんな他人行儀な子に育てた覚えはないんだけど?」
「…ッ母さん!」
エミリオ?とはてなを飛ばしているうちに、お母様があらわれた!…彼、ごまかそうとしてたのに、またペロっと言ってしまった。シャルさん、なんかもう泣いてる。
「リオンさんの…お母様ですか?」
「そうだけど、…この子は?…まさか」
「…母さん?」
「貴方の彼女!?」
……うん、たしかに。異性を連れたらそう思っちゃうかもしれないね。
「いえ、違います」
「なぁんだ、残念。でもびしょぬれだから、違うわよね。そりゃ」
キラキラした目のお母様。私に向けた指を丁寧に降ろさせながら丁寧に違うとを伝えた。そうしたらあまり残念じゃなさそうに微笑んだ。紫色の瞳をころころさせる愉快な人だ。
リオン君はリオン君で真っ赤になってた。
「こっ…こんな女と付き合う筈がない!」
「そうねえ、リオンにはもっと玉の輿を狙ってもらいたいものねぇ」
結構失礼なのはお母様も同じようだ。こりゃ父親も…と悪い想像が浮かぶ。先が思いやられるトリップだ。
こうして母親が現れたからには、玄関の前にいる私の存在を説明しなくてはならない。
ソーディアンマスターの資格があるみたいだ。とリオン君がぽつぽつ漏らすと、彼女は喜んだ。
「ついにミクちゃんのマスターになってくれる人、見つかったのね!」
ミクというソーディアンか。女の子で…、名前からして可愛い系なんだろうな。緑髪で、ツインテールで、歌も上手そうだ!勝手な憶測である。
「喜んで頂けて嬉しいです、お母様」
「お前性格を変えるな!…母さんの前ではお見通しだぞ」
真面目にしてみると、リオン君から非難の声があがる。
その言葉通りか、お母様は笑顔で私を見つめていた。その意味深な笑みに身構えそうになるのを堪えた。彼女の背後にうずめいているオーラのようなものを感じる。私も笑みを浮かべたまま、唾を飲んだ。
「そうね、私の前ではどんな人間か、何でも分かるわ……。例えば、お金ぽんぽん使う人とか、倹約家とか、貯金しそうな人とか」
心配は杞憂であった。
「わぁ、凄いです!私はどう見えますか?お母様」
「そうねえ、貴方は~…」
「…シャル、もう僕はどうしたらいいのか分からない」
『僕もですよ、坊ちゃん』