縮こまったこんのすけが審神者と話している。審神者は頷くと、こんのすけを優しく抱き上げ、労わる様に撫でた。
庭に住む、にわとりとなったピヨちゃん、池の金魚の金ちゃん黒ちゃんにぱらぱらと餌をやり、縁側で待っていたニャーちゃんとワンちゃんにも皿を用意し、餌をやる長谷部。
私はそれを心苦しい思いで見ていた。視線に気付いた長谷部は私に笑みを向けるので、サンダルを履いて、長谷部の傍へ歩み寄った。庭を闊歩する、上機嫌そうなピヨちゃんを眺める。
「相変わらずふくふくしてんなあ」
「そ、そのようなことは…」
「いや、あるんだよ…」
ふわふわのピヨちゃんを抱き上げる。前に抱き上げた時より、ずっしりとした重みを感じられた。発言が不服だったのか、腕の中で暴れ出すと、私の元から離れ、長谷部の方へ駆けていく。
「こら、ピヨ!主に向かって…不敬だぞ!」
長谷部が真剣に説教しだすも、知らん顔で長谷部の足元で首を揺らしている。
縁側でガツガツペットフードを食すニャーちゃんとワンちゃんを眺めた後は、池の金ちゃんたちに挨拶。金ちゃん、黒ちゃんの二匹では広すぎる池。何にも邪魔されることなく快適に泳いでいる。だが、こちらも縁日で貰った時より大きくなって、小さめのフナぐらいになってきた。
「長谷部、言いにくいんだけども…」
「何ですか?」
「この本丸にいる、ペットたちを、現代に送ろうと思う」
長谷部は私の言葉にすぐ返答できず、黙りこくってしまった。
「現代に物言わぬ動物を送るならば、歴史修正にあたらない」と政府の職員さんから聞いてから、言おうと言おうと思って、やっと口に出せた。
「…ごめんね、可愛がってたのに」
「そんなこと…、せいせいしていますよ」
「とか言って、強がっちゃってさ」
本丸で飼っているペットについての思い出話をしよう。
猫のニャーちゃんはいつの間にか本丸の庭にいた。第一発見者は長谷部だった。謎の猫をどうすべきか、対応に困っていたのを今でもよく覚えている。縁側を通りかかった時、長谷部にしては珍しくアワアワしていたので、「長谷部、何かあった?」と声をかけた。長谷部が自身の足を指差す。見ると、彼の足元に頭を擦り付けている猫がいた。
「ありゃ、なんで庭に猫ちゃんが。…それにしても可愛いねえ?」
サンダルを履いて近づこうものなら、長谷部に両手を広げられた。
「主!!俺に近づくのは危険です!歴史遡行軍の罠かもしれません!」
「まじか、罠かどうか確かめないと」
「おやめ下さーい!!」
そういえば、霧から何か迷い込むかもってこんのすけが言っていた。警戒心ゼロになった私。長谷部の足元の猫に人差し指を差し出すと、興味が湧いたのか人差し指に鼻をピタリとくっつけた。鼻、湿っているな。可愛い。
猫との出会いを堪能していたが、長谷部が突然、猫を抱き上げた。
「主に仇なす者は猫であろうと圧し斬ッ……ぐ」
ニャアーと気の抜けた鳴き声を上げる猫。仰け反って長谷部を見上げるつぶらな瞳に負けたのだろう。猫をゆるゆると下ろしていく。地についた猫は、膝をつく長谷部の周りをとことこ歩いている。
「もう、大丈夫だってば。外の霧から動物とか迷い込むことがあるってこんのすけも言ってたし」
「それを早く仰ってください!」
危険がない事を知り、長谷部は大きくため息をつく。最初の頃の長谷部はいつも笑顔だったのだが、付き合いが長くなっていくにつれ、気苦労を見せ始めていた。それでこそ我が本丸の一員。
「でも、どうしようか。霧に押し込む訳にもいかないし、ここで飼うしかないね」
「…そうですか」
「長谷部に懐いているし、世話する役に任命するね」
「拝命いた…しません!危ない!唐突に何を仰いますか!?」
猫ちゃんは見るからに長谷部を気に入っている。だって、さっきから尻尾を長谷部のジャージの裾にまとわせているし。この猫、やりおる。
「え~駄目?そっか、なら私が世話するか…」
「そうして下さい」
長谷部が嫌なら仕方ないか、ということで私が世話をすることに。
それから、みんなに猫ちゃんをお披露目して、「ニャーちゃんだ!」とインスピレーションで名前をつけた。ニャーちゃんはすぐにみんなのアイドルと化し、加州、さらにはお供の狐をも嫉妬させた。
通販から猫用品を購入すると、長谷部の部屋に置くことにした。トイレや餌置き。水はちょっと離れた所に置くと、長谷部に激怒された。
「何故ですか!?」
「私の部屋はね、とっちらかってるでしょ?置く場所ないんだよ~」
「廊下にしてください!」
「じゃあ長谷部の部屋の前の廊下にしとくわ」
それから、少しして。私がやるより前に、長谷部が世話をするようになる。部屋の前でニャーちゃんに催促の甘え声をかけられりゃ、誰だって世話係になるさ。
その際、間の悪い長谷部は私を見つけ、「あっ」という顔をし、私は「そうかそうか」と頷き去っていくのだ。「違うんです!主!ニャーが鳴くので…主ッー!!」というやりとりを何回か繰り返した。我ながら策士。自分自身を褒め称えることを欠かせない。
ワンちゃんがやってきたのはその後。
「遠征中迷い犬がいたので一緒に帰ってきちゃいました」
「…可愛い」
鯰尾が一言で説明してくれた。鳴狐も迷い犬に夢中。ちょっと前の嫉妬騒動が解決して、今度は柴犬。お供の狐は私に泣きついてきた。
「鳴狐は!私めなどどうでもいいのです~!!」
「そんなこたあない。鳴狐には狐がいてこそだよ」
慰めていると、慌ててお供の狐を探しに来た鳴狐によって、嫉妬問題はすぐ解決した。
この子もインスピレーションで「ワンちゃん」と名付け、長谷部の部屋の前に室内用の犬小屋を置いておいた。やっぱり激怒されるも、なんとか許可は頂けた。ワンちゃんはお利口さんなので、お腹がすいても甘えた鳴き声は出さないが、長谷部の部屋の前で忠犬のようにご飯待機をしている。でも、その横でニャーちゃんが甘えた声を出すので、あんまり意味がない。ニャーちゃんと一緒にご飯を出すようになる長谷部。
そういうことで、生き物係として改めて任命した。今度は渋々、拝命してくれた。
その話を加州にした時、「前、「主従とか関係ない」とか言ってなかったっけ」と言われ、「そうだったっけ?」と返した。記憶にございません状態である。
今から数ヶ月前に金魚の金ちゃん黒ちゃん、ニワトリのピヨちゃんを迎えたところは政府主催のお祭り会場だった。
「常日頃、敵と戦う審神者様や刀剣男士を労わるためにお祭りを開催します。近侍一振りを連れ、お祭り会場まで是非お越しを!」というタブレットの通知を見て、歴史修正主義者の罠か?と思ったが、その後こんのすけが宣伝に来たので、本気だったようだ。
その際、私のような任務をサボっている審神者でも労いの祭りに参加できるかも確認しておく。こんのすけは言葉を濁しながら「まあ多分、いいんじゃないんですか…」と言ってくれたので、多分行っても大丈夫そう。「他の審神者様への宣伝をしないと」とこんのすけは足早に去っていった。
この話をみんなにしたら、ほぼ全員が食いついてきた。その中で「行きたいやつが行った方がいい、俺は遠慮しておく」とはしゃぐみんなを影から見守る薬研さん。なんとまあいじらしいこと。私はそれを見て、口を手で覆っていた。男気溢れるお人なのは痛いほど分かっているが、その見目でその言葉は、いけない。
私の独断で、薬研さんを祭りに連れていくことに決定した。
ブーイングの嵐、かと思いきや、みんな「薬研なら仕方ないか」と大人な対応をしてくれた。あれだけ行きたいとねだってきた鯰尾も「お土産待ってるねー」と賛成してくれている。
「俺はいいと言ったんだが…」
「いや?薬研さんにこそ祭りを楽しんでもらいたいと思ってね」
わたあめを持って、お面をつけた薬研さんが見たい!というよこしまな思いもあった。それは黙っておく。
お祭り当日は、夕方に薬研さんと共に玄関を出て、こんのすけから指定された場所へワープ。すると、提灯の赤い光に照らされた場所に出た。祭囃子の音もする。ザ・お祭りである。
他に来ている審神者を見ると、浴衣や甚平など着て、刀剣と、はたまた審神者同士で色めき立っている。青春しているな。眩しすぎて、老人のように目を細めてしまう。
「大将も浴衣を着りゃあよかったんじゃないか?」
浴衣を着ていく選択肢がここにいるみんなの中にあったことに驚くレベルの審神者である。着付けもあんまり分かっていないし、浴衣があったとしてもタンスの奥に放置しているだろうな。
それよりも薬研さんの言葉に、審神者は調子に乗ってしまう。
「やっだー、それじゃデートじゃないですか薬研さんー」
「俺はデートでも構わんが?」
「薬研さん…。審神者、久々にキュンときたよ、ありがとう」
「どういたしまして」
顔を見合わせると、二人して豪快に笑いだした。
とりあえず腹ごなしに焼きそば、フランクフルト、たこ焼きを食べた。みんなにも持って帰る為に余分に買って包んで袋に詰めてもらう。無計画に購入し、初っ端から荷物を作る審神者とは私のこと。袋を持ち上げようとした際、「大将、俺が持つ」と薬研さんがスマートに荷物を持っていくからさらにキュン…。
でも!これでは、デザートのわたあめ、りんご飴が、両手がふさがって食べられないじゃないか!薬研さんのお面にわたあめ姿は、もう諦めよう。だが、甘味を諦めてほしくない!甘味を食べて笑顔になってほしい!
「いや、別にいいが…」
「私がよくないの。ここはあーん作戦でいこうか」
説明しよう!文字通り、手ぶらの私によるあーんで薬研さんにデザートを食べてもらう作戦である。
早速わたあめ、りんご飴を1つずつ買ってきた。私はいい、頑張ってくれている薬研さんに甘味を!
「はい、わたあめだよ。あーん」
「……うちの主は恥ずかしいことさせんだな」
私に何を言っても聞かないのを、もう顕現してそこそこの薬研さんなら分かっているだろう。観念したのか、差し出したわたあめにかぶりついた。
「美味しい?」
「…ん、うまい!」
その笑顔が見たかった。その言葉が聞きたかった。
りんご飴も食べてとつやつやの飴を差し出し、あーんする。こちらもカリっとかぶりつくと、「んまいな!」と頷いた。その様子を見ていて、破顔しすぎていたのか「大将、にやけすぎだ」と苦言を呈されてしまう始末。
甘味を食べ終え、お面屋さんの前を通りかかった際は、それとなくお面つけない?と誘ってみた。だがやはり、「俺はいい」と断られる。でも買っておいたら、いつか付けてくれるかも、と希望を持って一枚だけ購入。ラインナップがこんのすけしかなかったので、こんのすけお面を購入するしかない。こんのすけのお面のみずらりと並んだ店に、店番もこんのすけが立っているのを見て、さすがに他にバリエーションがなかったのか、と思ってしまった。ここまでの店番も全員こんのすけだった。ただ、黒かったり、眼鏡をかけていたり、ちょっとぽっちゃりしていたり、お面より様々なこんのすけがいた。…お面、頑張ってバリエーション増やそう!?と思ってしまった。
くじ屋、射的もあったからとりあえず一通りやっておく。祭りを満喫しなくてはと、必死である。くじで当たったのは、こんのすけの抱っこちゃん人形だった。射的はまったく倒れる手応えがなく、薬研さんに代わってもらうと、格好よく一発で倒れた。景品は駄菓子の詰め合わせで、これまた私のテンションが上がる。「こんなんでいいのか?」という薬研さんの言葉に「うん!」と頷く成人女性。これでは、私の方が子どもである。
そして、祭りといったら金魚すくい。これは惨敗だった。幼い自分から成長したであろうし、一匹くらいとれるだろうと思ったが、まったく取れない。五百円つぎ込んだところで店番の、ちょっと眉毛が凛々しげなこんのすけが哀れに思ったのか、二匹くれた。赤い金魚と黒い出目金。袋の水の中でぷかぷか泳ぐ姿に愛しさを感じた。
そして、ひよこも販売されていた。昔はカラーひよこなる恐ろしい売り方をしていたようだが、こちらは少数精鋭でホッとしている。店番の細目のこんのすけ曰く、ニワトリになったら卵を産むので、本丸にぜひどうぞ、とのこと。こちらも一匹購入。手のひらに乗せて持って帰ることにした。
息をするように生き物を購入した私に、薬研も流石に声をかける。
「大将が世話する…訳じゃねえよなあ」
「みんな長谷部に頼もうと思う」
「怒られるんじゃないか?」
「だよねえ、まあでもニャーちゃんもワンちゃんも私、たまに面倒見てるし、許してくれるって。怒るのは最初だけだと見た」
「そうか…。長谷部も丸くなったなあ…」
夜に帰って、みんなに玄関で迎えられると、「どうだった?」と聞かれるも「まさに祭りだったよ」という感想しか言えない。残念な目を向けられたので、薬研に感想を求めた方がいいよ!と勧めて、居間の食事用の長机に夜食として屋台の料理を広げると、庭へ向かった。
先ほどから、奴の視線が鋭い。
袋に入った金魚は池に放つ。月が水面に映った池をすいすい泳ぎまわる二つの影。自由そうでなによりだ。「いいねえ」と手のひらのひよこちゃん…ピヨちゃんに話しかける。
「生き物を増やしましたね」
長谷部が、やはり険しい顔をしている。いつもの眉間のしわより深くなっている。「それがどうした?」と、とぼけていれば、「誰が世話をするつもりですか」と直球が返ってくる。
「長谷部と私かな」
「ほぼ俺がやる羽目になるのは目に見えています」
うーん、と考える。
「…ならそうなのかもしれない」
「確実にそうなります!!」
今までに猫、犬、連れてこられては世話をしてるのは誰ですか?俺です!!と長谷部は叫ぶ。
「そういやそうだったね」
魚の匂いを嗅ぎつけたのか、庭に降り、金魚にちょっかいをかけようとするニャーちゃんを抱き上げながら頷く。
「俺の仕事が、また増えます」
切実な眼差しだが、「あれ、社畜じゃなかったっけ?」と呟けば「社畜ではありません」とピシャリとツッコミがはいる。
「でもなんだかんだ言って可愛がってるじゃないか」
丸々とした猫を抱き上げて、ほれ、と見せつける。これが証ではないか?腕を伸ばし、猫を長谷部の顔へ持っていく。
「可愛がってなど」モフモフに包まれ、言葉を詰まらせる長谷部に追い打ちをかける。
「私も、君のおやつで丸々としてきたぞ。このお腹に長谷部の愛がこもってるんだね…」
お腹をさすって囁けば、顔を赤くした長谷部がおやめください!と声をあげた。
「長谷部はお母さんだね」
「俺はお母さんではありません!!」
多分、何年か先には鯉ぐらいになった金魚がみれるんじゃないかなあ、なんて思っていた。
だけども、あのお祭りに意味があったのを、今なら想像できる。
「政府の職員さんから写真が届いてる!」
長谷部の反射スピードが早すぎる。それにビビりながら、ほら、とタブレットを長谷部に向ける。そこには我が家の居間のソファに座ったニャーちゃん、ワンちゃんの姿、可愛い。ニ枚目は水槽で泳ぐ金ちゃん黒ちゃん。可愛い。三枚目は庭を駆けるピヨちゃんの姿が!可愛いなあ。みんな、元気そうで何より。