「ここがクエストの事務所ですか」
見るからに屈強そうな冒険者みたいな人たちが溢れ返っている。比率はやはり男性の方が多い。
お母様に「ミクちゃんと仲良くなるには、やっぱり一緒に戦わなきゃ」と言われたし。その際、「依頼を達成したお金を食費なんか、生活費に使ってね!ただでさえ一人養うのは辛いから」とも言われた。
…とても、ミクトランと仲良く、が建前に聞こえる。
私達はセインガルドのクエスト事務局に来ていた。給料の他を自力で稼ぐのもアリだろう。
やるにあたっては、出来るだけ堅実にしないとな…最初から難易度高い依頼をやって死にたくはない。
ちょっとした戦闘の手ほどきはリオン君に習ったから大丈夫…な筈。
…というかみんなの目線が痛いほど私にそそがれている。…こんな真っ黒な大剣を抱えてたら誰だって二度見するわな。
『…何故この私が地上人の助けなどッ…!!』
「埋められたくなかったら大人しく振るわれろよ」
『なッ…!?』
剣の方は剣の方でなんか不機嫌そう。だが私の知ったことではない。
とりあえず冒険者登録みたいな事をしないと何も依頼を受けられないみたいなので、受付に足を進めた。
「…あ、あのっ、もしかして、ソーディアンですか?それっ…」
「はい?」
受付の女の子と視線がかち合うと、予想していたのと違う言葉を言われた。
私が面食らっていると、興奮したように受付の女の子は鼻息を荒くした。
「やっぱり!コアクリスタルありますもんね!いやぁ新しいソーディアンマスターに会えるなんて私は幸せ者ですよ~」
「はぁ」
先ほどの「はい?」を「はい」と、履き違えられたようだ。ぽかーんと、ただ相槌をうつ私にソーディアンオタな女の子は「これで生で見たのは4人目だ」だとか「リオン様と同じようにヒューゴさんからのご提供なんですか?」などと言っている。
…リオン君は、ヒューゴ夫妻の息子であることを隠している。あの若さで、実力でお城の客員剣士まで上り詰めたのは、剣の手解きを受けた時にありありと実感した。
ヒューゴさんはお城の上層部とソーディアン発掘、研究で連携をとっている。そのコネで客員剣士になれたと思われたくないらしい。それで姓が違うわけ。
そのおかげか、世間ではヒューゴさんにマスターとしての才能があるからソーディアンを提供されたという事になっているようだ。…あんなのでよく隠し通せるものだ。
時間が経つにつれ、質問はエスカレートしていく。私はさっきから「はぁ」しか言っていない。
「あ、名前はなんていう剣なんですか!?地上軍の人なんですよねっ!」
「…えーと」
これは具体的に答える質問だ。うーん困った。天上軍のドンのミクトランです。なんていったら、どえらい事態になる。その為に口止めされたんだ、とも今気付いた。
どうしたものか、即興で…うーん。
…少し考えた後(当の本人は名乗る必要はない!とか言っているが、無視)私はこう答えた。
「初音ミクです」
『逆になんだそれは!?』
「ハツネ・ミク…さん?」
「chord nameです」
「へええ!そうなんですね…!!」
✳︎✳︎
「……」
『何をウズウズしている』
「…だって、ちょっと腕とか、心意気も鈍ってしまいそうで」
『披露するまでの腕があるとでも思っているのか?』
「そーですね、あはは」
今度は配達の仕事。意中のあの方に手紙を渡してきて…という何とも乙女チックな内容。
前は薬草採取、その前は料理を配達…と、非戦闘系の依頼を5,6件こなしてきた。さすがに依頼というものに慣れてきた気がする。
しかし、そろそろその剣はお飾りですか?とか言われそうだ。こんな邪悪そうな、高レベルそうな剣装備しているのにね。だからこそ、なんかもう少し歯ごたえのあるお仕事をしてみたいものだ。
クエストといったら、○○を何匹討伐してきてくれ!とか滅びた町に巣食うドラゴン退治!とか浮かんじゃうくらい、退治系がポピュラーで格好良い。
…こうやって、はたから見ると独り言にしかみえない事をしながら(リオン君のきもちが分かった)、私は視界を覆う程の花園を掻き分けています。
依頼の為だ。なんでも、ここにその意中の剣士様がいるらしい。
「やっぱりリオン君だ」
「!…何だ、お前か…」
顔にかかる葉をどけると、サンドウィッチをかじっているリオン君がいた。シャルさんは隣の木に立てかけてある。
依頼にあった、いつも昼に城の花園に立ち入る男装の麗人、とはリオン君だったのかー(棒読み)
普段はリオン君、城務めをして、城で暮らしてるらしいから、まさかと思ったが、そのまさか。
それに花園に居るっつったって、どこにも居ないから、中心部までガサガサ入っていってようやく見つけたが、とても…見るからに便、いや花園飯ではないか。
リオン君、何か、ぐぬぬ、って顔しているよ。私にはその目に涙が浮かんでいる気がするよ。
早速それを見たミク様は罵倒しにかかっている。
『シャルティエ少佐のマスターは一人さびしく飯を食べているのか、哀れだな』
「こぉら、ミク、ここに放置して帰ってもいいんですよ」
ガリガルとコアクリスタルを地面にこすりつけると、やめろー!という哀れな悲鳴がきこえた。よく噛み付いてくる子だなぁ…。
「別にいいじゃないですか、べ、花園飯、…そう選択したなら」
言って気付いたが、そういうのはリオン君の自由だけど、精神的にかなり辛いのではないだろうか…、とも思った。まだ子供だろうし、大人の中で働いて、気の置けない友達がいないのは大変じゃなかろうか。
木にたてかけてあるシャルさんのコアが光る。
『(花園飯?)う~ん、でも僕としてはもっと坊ちゃんに友達と楽しくお昼を食べてほしいなぁ』
「いつも一人で食べてるんですか?」
「…うるさい、関係ないだろ」
「友達つくるのも一つの手かもしれませんね、わざわざこんな所で食べるくらいなら…あ、そうだこれお届けもので~す」
「友達…なんて、別に…!って何だそれは」
思い出したので、話を遮りキャピルンルンとした便箋を渡すと少しの達成感を感じた。花々の香りを吸い込みながら、うん、と伸びをする。
リオン君は嫌そうな顔をしながらそれを受け取り、即座にシャルの側に置いて読もうとしない。
「…依頼の品なんですから、中身くらい見てほしいんですけど…」
「嫌だ」
『坊ちゃんはいつもそうなんだ、女性からラブレターを受け取っても捨てちゃう』
「へぇ酷い人だなぁ、でもまぁいっか」
「な、何だ」
その手紙には○日のどこどこで待ってます!だとか書いてありそうだが、私の知るよしもない。
依頼は手紙を届ければいい、との事だもの。
私もどっかりそこに腰を下ろすと、リオン君はぎょっとしたような顔をした。
「私もここでご飯を食べさせてもらいます」
そう言って、私は自分で作った弁当を包みから出した。
「何で…」
「昼ですし?リオン君がサンド食べてるの見たら、お腹がすいて?」
「…っだったら僕は移動する」
あせって立ち上がるリオン君。何でそんな嫌がるんでしょか。
「どうしてそんな寂しい事、言うんですか…?」
「…なっ!離せ!」
「へははは、隙ありィ」
泣いて落とす作戦、略して泣き落としを仕掛けると、まんまと少しぐっと来たんでしょう。立ち止まったリオン君の足をがっちりホールド。
剣達が白い目で見てくるが、とても関係がない。
「さ、私と一緒に食べましょう、大丈夫、大丈夫」
「何が大丈夫なんだ…」
仕方ないといった風にリオン君はため息をつくと、またその場に座ってくれた。
それを見届けた私はお弁当箱を開ける。
「いただきます」
二段弁当で、中身は1段目はふりかけご飯オンリーと、2段目はおかずコーナー。
おかずは、定番の卵焼き、たこさんウィンナー、ブロッコリー、そして塩じゃけです。
一人暮らしをするようになってからは、こうやって自炊をするようにはしてたけど、まさか異世界で役に立つとは…!
「リオン君にもおすそ分けしましょうか?」
「べっ別にいら…ぐ!?」
『坊ちゃんーーーーー』
「遠慮しないで下さい」
なんとなく卵焼きをチョイスして口に突っ込んであげると、グーで殴られた。だけどへこたれないわ。
「女の子をグーで殴る事ないでしょうよう…あ、美味しかったですか?」
「無理やり口に突っ込む奴に女も関係あるか!…む」
『何だ』
リオン君は一旦怒るのをやめて、私を見つめた。
「……」
「まさか、そんなに美味しくなかった…?」
「いや…」
「じゃあ素直に感想を言って欲しいですな」
「調子に乗るな!」
きれいな顔で睨まれても、私、怖くありませんよ~と、にこにこ笑う。
なんだ、美味しかったのか、良かった良かった。結果オーライ。
「そういえばさあ、リオン君、お城務め大変?」
「……いや、別に」
「周りは大人ばっかりでしょう?」
リオン君は面倒くさそうに返事をする。
「そうだが、別に問題はない」
「…もしも、そんな態度ばかり取っていたら損ですよ」
「なんだと」
「ほら~そ~いうんですよ」
年上のアドバイスにきっと睨みつけるってどうなの。
すかさず両手で指をさすと、むっとされた。納得いかないって顔。
「リオン君が年上の兵士の立場だったとしてみよう、そこに年下の偉そうな上官が日中プリプリしてたら、嫌だなぁって思うでしょ?下手に関わりたくないなとも思うでしょ」
「……」
「嫌でしょ、ぶっちゃけると、そんな人の下に就きたくないでしょうよ」
「…そうだとしても、お前には関係ない」
「私には関係ない、そうですね、他人ですもん。でも一緒にご飯食べた仲なんですから、少しくらいお節介しても、いいじゃないですか。年上だし背もおっきいし」
笑いかけると、顔をそらされた。
「…お姉さん面の説教タイムはここまで、気を悪くしたならごめんね」
「……」
「こんな事言う人、家族以外に居ないと思っちゃったから、ついね」
「…確かに、皆、僕にそんな説教はしない」
「いい体験だった?」
「さぁな」
そこまで怒ってない所を見るに、思ったより、リオン君は大人のようだ。
リオン君はそこまで悪いやつではないのだから、よき理解者が出来るように、お姉さんは願っている。