包み込んだ君の後先

あんた、女だろう。もっとちゃんと座るべきだ。近侍である山姥切がぼそぼそとした声で注意してくれた。私は今巫女装束でごろ寝し、煎餅をぼりぼり食べて いる。庭で遊んでいる短刀達を眺めては、煎餅をかじる。傍から見たら怠慢しているように見えるが、やる時はやっている、と思う。
いいよ、別に、と適当に言葉を返した。あんたは…、とまたグチグチ言われそうだったので、山姥切も煎餅食べる?と一枚煎餅を差し出しておいた。「い、いらない」と言葉を詰まらせながら断られた。ちなみに彼は畳の部屋でごろ寝している私の後ろに控えて、正座している。
山姥切に差し出した煎餅を食べ終わると、眠いなあと思ったから寝ることにした。欠伸をしながら立ち上がる。押入れを開けると、「また昼寝か」と後ろからお堅い声。
「食べてすぐ横になると、太るぞ」
「何回も言ってるけど、審神者の力を使うとカロリー消費激しいの。これぐらいが丁度いいの」
布団を敷き終えて、よっこいしょと掛け布団をかぶった。うちの本丸はリクエストがない限り大体春である。そう、お昼寝日和だ。
山姥切はお母さんのごとく、今度は私の頭の脇で正座した。「なあに、寝物語でも聞かせてくれるの」と聞けば「そんなもの、知るわけないだろう」と返される。
枕元の布を被った男は、やっぱり固い表情だった。いつも何か思案でもしているような、眉間に皺がよっているもの。その原因は私だけではないのだろう。
「あんたは…自由すぎる」
「え~?そうかなあ。一応みんなを出陣させてはいるでしょ。ちゃんと審神者やってるよー」
「出陣は…政府の警告が来るか来ないかのペースだろ」
「…知ってた?」
「昨日、酒で酔っ払ったお前が言っていた」
「あらら」
そうか、おやすみ。スヤアと寝入ろうものなら、山姥切が「話を聞け」と声の大きさを少しあげた。
「俺達を戦に出せば、その、あんたも怒られずに済むだろ」
「ええ~…いいよ別に…。そんな積極的に社畜にならなくても…」
「…気遣いはいい、すぐにでも俺を戦に出してくれればいいだろう、どうしてそうしない」
「それはやだよー、山姥切が戦にはしる、というか逃げていっちゃいそうで、やだなあ」
また戦なんかに出て、折れるのもいいなあ、折れたら楽だなあなんて思って欲しくなかった。戦に出て、高揚したような目で帰ってきた山姥切を見てきたから。
山姥切には笑っていてほしい。ちゃんと、私をだらしない、と怒って欲しい。
ああ、まずい。目頭があつくなってきた。へらへらと笑っているのも難しくなった。
「…ごめんなあ」
勝手な主で、ごめんなあ。刀であった君は戦に出たいだろうに、私は人として君を見ていた。山姥切に失望されるだろうか。彼がいつもしていたように、布団 をかぶった。何も見たくなかった。失望される顔とか、悲しげな顔とか。悲しい顔は君には似合わない。楽しく。楽しくいこうよ、私よ。
真っ暗の視界に光が差した。「しっかりしてくれ」と山姥切の声がやけに響く。情けない顔が露になっている。山姥切は私を見ていた。だけど、そのきれいな顔は歪んでいなかった。真摯に私を見つめていた。
「…言っておくが、折れる気はないぞ」
「本当に?」
「あぁ」
もうあんなことは言わないだろうさ。山姥切はかみ締めるように呟いた。…今までの彼だったらしなかったろうに、覆い被った布団を剥ぎ取って、私とちゃんと話そうとしてくれた。それが、証だろう。
「…あんたがしてきたことを、しただけだ」
彼は後にそう語る。