大人数、しかも大食らいたちのご飯を調理するのに、最近業務用の鍋をポチってみた。底の深い寸胴鍋なので、これからスープや味噌汁を作る時に重宝するだろう。前の月に買ったテフロン加工の大鍋はおかず作りで既に大活躍している。
もちろん、前まで使ってた普通サイズの鍋も、ちょっと小腹が空いて袋めんを食べたい時などに使っていきたい。鍋もまた付喪神になっているかもしれない…。お供の狐から教えてもらわなかったら、きっと戸棚の奥にしまったままにしていただろうな。
大鍋でことこと煮ていた茄子の煮浸しが完成した。蓋を開けると出汁のいい香りに、うんうん、と頷く。
「完成か?」
「うん、完成です。盛り付けお願い」
「あぁ」
今日の料理のアシスタント、山姥切君が好奇心旺盛、きらきらした目で台所の料理を見渡している。
いつもボロボロの布を身につけている彼。そのまま料理を手伝ってもらうのに抵抗を感じたので、今持ってる中でなるべく綺麗な布、に妥協してもらった。
家から持ってきたチェックのエプロンをジャージの上からつけてもらい、私の指示のもと、おぼつかない手付きで朝食作りを手伝ってくれた。主におかずを食器へいれる係。茄子の煮浸しを皿に盛り付けていく山姥切君を見届けた後、台所から刀剣たちを呼ぶ。
「ご飯できたから後はよろしくー!」
煮浸しの盛り付けが終わったら味噌汁をよそっておくれ、と山姥切君に伝えて居間へ向かう。
刀剣たちに料理を指南したことがある。あわよくば手伝ってもらおう、とか、そのまま料理当番を任せようと企んでいた。
鳴狐は調味料という概念がないのか、毎回味付けゼロの料理を出されてしまうので却下。
山姥切君は来たばかりなので、料理をする様子を見せたり手伝わせた後、テストとして実際に何か作ってもらおうと思っている。その為、保留。
堀川は意外にも大雑把な料理であったが、唯一まともに食べられた。ちなみに、荒く切った野菜炒めに、大胆に調味料を入れたチャーハンだった。
私がダウンした時には当番を代わってもらおうと思っているが、出来る限りは作ってあげたい。
料理に関しては、よっぽど、私よりうまい、料理が楽しい!と言ってくれるような刀が来ない限り、私がずっと担当しようと思っている。美味しいご飯を食べたいし、食べてもらいたいし。…私、いい審神者では?褒めて?
加州と鯰尾は相変わらず論外の腕なので、台所の戦力として期待はしていない。
そういえば、料理を作るようになってから、毎日三食用意する生活のハードさを初めて知ったな、と思い返す。
親の庇護のもと暮らしていた日々がいかに楽だったか、と思い返すも、帰ったら帰ったでそのまま母親に甘えてしまいそうだ。き、気がついたら手伝お…。
そもそも家に帰れるのか今のところ全然分からないが、きっと歴史修正主義者たちをぶっ倒していつかは帰れるだろう。
謎のポジティブさを発揮させるも、私は刀剣たちをあまり出陣させていない貢献度ほぼゼロの駄目審神者である。
廊下で鯰尾、堀川とすれ違う。彼らが配膳係なのかな、と無意識に想像する。
居間をくぐると、加州がすり寄ってきた。頭を私に向けている。はいはい、と頭を撫でる。こんなの絶対おかしいよ、と毎回思っているが、いつか思わなくなる日が来るのだろうか。
「えへへ…お疲れ様、主。今日のご飯は?」
「ネギ卵焼きと、ウインナー、油揚げの焼いたやつと、大根おろしと刻みネギ、茄子の煮浸しに、ネギましましの味噌汁、納豆にもネギ」
「昨日収穫したネギが大活躍だね。嬉しい」
加州がはにかんだ笑顔を見せてくれた。
そう、加州の作ったネギをふんだんに使った朝食にした。
仲間が全然いなかった頃、畑仕事をしないと食料がゼロになるので、少ない刀剣と私で毎日畑に繰り出していた。
土いじりがあんまり好きでないと言っていた加州も、今では畑仕事が楽しくなってきたみたい。すぐ野菜が収穫出来るし、達成感を得られやすいものな。気持ちは分かる。
「我ながら食べるの楽しみにしてるよ」
「俺も!…俺の作った野菜が主の血となり肉となる、何だか、すごい嬉しいな」
料理を作った身ではあるが、加州が育てたネギを食べるのが楽しみ。そう伝えるも、不穏な気配を察知。そして、無視しておいた。
「加州さん?ご飯よそうんで、持ってってくれますか?」
「分かったー。ちょっと手伝ってくるね」
鯰尾の呼びかけで、加州が鯰尾の待つ炊飯器の元へ向かった。ふう、と息をつく。危ない危ない。
ご飯茶碗を机に置くと、鯰尾はそばの業務用炊飯器をぱかっと開ける。ほかほかの湯気が中から溢れてきた。炊き立てのご飯を正座しながら茶碗へよそう。みんなのおかわりが多いので、居間に炊飯器を置いている。
加州にご飯を渡すと、加州はそれぞれの席にご飯を運んでいく。みんなの座布団と机に箸を並べてくれるのは鳴狐。毎日、さりげなく手伝ってくれる。
堀川、山姥切君はおぼんからおかずを運んできてくれた。
一通り机に並べ、みんな着席したら手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
さあて、卵焼きから食べようかな、と箸で半分に切り分けると、一切れ口に運ぶ。うん、ネギが卵とマッチして…。
ちょっと通りますよ、とこんのすけが居間を自然に横切ってきた。
また通達か。心当たりがありすぎて焦ったせいか卵焼きが変なところに入った。むせる審神者。「大丈夫ですか?」と左隣の鯰尾が背中をさすってくれた。
「ゲホゴホ…何でしょうか」
「今月の書類を届けに参りました」
こんのすけが背負ってきた風呂敷をそばに寄って解いてやる堀川。中には、束ねられた書類たくさん。
「わあ、ありがとう」
全然ありがたくないが、ありがとう。
笑顔を無理やり作る。こんなぎこちない笑い方ならこんのすけにも作り笑いだと識別できるだろう。毎月来られて嫌な思いをしていると暗に知らせる為の、あえての作り笑いである。
しかし、視線は私に向いておらず、机の端に置いたおかずへと、注がれていた。
「はっ…油揚げ…」
そのおかずとは、油揚げ。油揚げの気配を察知、した如く、油揚げをガン見している。
鳴狐のお供の狐も、油揚げをちぎったものを鳴狐の手から食べていた。こんのすけも食べられるのだろうか?
いや、でもロボじゃなかったっけ?素直にそう聞くと「私は油揚げを好物とするようプラグラミングされています」と、答えになってない答えを頂く。
「思わぬところで、私めのライバル出現ですね…!」
「まあまあ、張り合わないの、お供の狐にはお供の狐の魅力があるよ」
「主様…!」
ただでさえ狐被りなのに、油揚げ好きも被ってしまうとは。お供の狐はそう思いこみ、ジェラシーを感じたようだ。
やんわりといさめると、うるうる目で見つめられた。そう、その愛嬌だよ。あやつにはそれがない。いつも淡々として、厳しい。お供の狐の魅力に敵いっこないんだから!
そうこうしている間にも、こんのすけは油揚げを見つめながらよだれを垂らしていた。ロボ設定どうした!?ロボじゃなかったのか!?
「主さん、油揚げあげてみてもいいですか?」
堀川が油揚げがのったお皿を手に持っている。何かしでかすと厳しいけど、堀川は基本的には優しい。
ま、まあ、いいんじゃない?と伝えると、堀川はこんのすけの前に油揚げを置く。
「このままだと食べるのが難しいんじゃないか。ちぎった方が食べやすいか?」
「ありがとうございます…!」
山姥切君のナイスな気遣い。それに対してのお礼の言葉。淡々とした声しか聞いたことがなかったから、抑揚があり、いかにも感情がこもっているような声にびっくりしてしまった。
カリッカリの油揚げを食べやすい大きさにちぎってあげた山姥切君が皿を目の前に差し出す。さあ、召し上がれ。
こんのすけは猫ちゃんのように、油揚げのひとかけらにかじりついた。そして、咀嚼。咀嚼。飲み込む音。
こんのすけは顔をあげた。
「はぐー、油揚げうんまいです!」
審神者、固まる。
すぐに顔を下げ、油揚げをがつがつ食べるのを再開したこんのすけ。
顔をあげた時の輝いた表情ときたら、生きた狐のようだった。刀剣のみんなも、あのこんのすけが…と驚いていたが、いつも厳しく指摘・叱咤しかされない私にはさらに衝撃が強い。
みんなからじいっと見られているのに気付いたのかやっと顔をあげた。
「な、何ですか、人の食事風景をじっと見るなんて…失礼ではありませんか?」
動揺している。
「あんた…「うんまーい」なんて可愛いこと言えたの…?」
「……そう設定をされておりますので」
その間は何だ。それに「うんまい」とあざといことを言う設定とは?審神者から「可愛い」の言葉をを引き出し、籠絡するつもりだろうか。あらやだ怖いと、懸念しながらも、ついついこんのすけの頭を撫でてしまう審神者。(加州が「あっ」という顔をしている)「食事中に触らないで頂きたい」といつもの調子で返された。塩対応。ギャップ萌え。……考えすぎか。
あっという間に皿の中の油揚げがなくなった。綺麗に食べたなあ。かけらひとつ残っていない。
「ありがとうございました。堀川国広様、山姥切国広様」
「そんな、お礼なんていいよ。お礼なら主さんに」
私に?思わず自分を指さすも、みな一様にうんうん、と頷く。
「だって作ったのは主だもんね?」
自分のことのように誇らしげに言うものだから、微笑ましくて、軽く笑ってしまった。
「そうなのですね。審神者様、ご馳走になりました。ありがとうございます。」
ぺこり、とゆっくり頭を下げたこんのすけ。胸がじんわり温まる気配を察知…。この言い回し、気に入ってきた。
「いいってことよ。…うちの本丸をちょっと贔屓目に見てくれても構わないからね」
提出書類のチェックを甘くしてくれたり、なんなら出陣回数が少ないことへの警告も減らしてくれたって構わないのよ?ほら?どうした?チラチラこんのすけの様子を伺うも、ここにいる一同に深いため息をつかれた。
「何でさ」
「主ってば、そういうこと言うから全部台無しなんですよ」
鯰尾が、分かってないなあ、と言わんばかりに首を振る。その左隣に座っていた鳴狐がゆるゆると肩を落としていく。
「折角、仲良くなれそう…だったのに」
「鳴狐さんがショックを受けている…」
悲しげに目線を落とす鳴狐。解説する堀川。なにやら深刻な雰囲気になってきた。はい、すみませんでした。調子に乗ってました。
「私が悪かった!こ、これからもうち来る?油揚げ食べてく?」
「そうですね…では一つ、リクエストを」
「なんなりとお申し付けを!」
乗り気になってくれてよかった。本丸内の空気が少し和らいだ。
「では、甘酢につけた生姜を細かく刻んで、胡麻と一緒に和えた酢飯を、甘すぎない程度に煮た油揚げで包んだおいなりさんが食べたいです。かじったら、じゅわっと煮汁が染みて、それはそれは「うんまい」んでしょうねえ…」
ほう、と息をつくこんのすけ。なんだ、この詳細な説明は。たしかに美味しそう、食べたくなってきた。
鳴狐の肩のお供の狐も想像したのだろうか、よだれを垂らしている。鳴狐はそれを見越していたのか、ティッシュで拭ってやっていた。
「オーダー頂きました!じゃあそうだな…明日のお昼の十二時になったらおいでよ。たくさんおいなりさんを用意して待ってるね」
「よろしいのですか?では明日伺わせて頂きます。本丸の皆様も、食事の際、お手間をとらせてしまいましたね。すみませんが、明日もよろしくお願いいたします」
みんな、大丈夫、気にしてないよ、と声をかけ手を振る。こんのすけは頭を下げると、元来た方へ駆けていった。
帰ったようだ。嵐が去った…。安堵で大きく息を吐いた。気苦労なんてそうそうしたことなんて、なかったのに。
「明日の昼、……楽しみだな」
山姥切君の呟きに、「そうだね!兄弟!」と元気良く堀川が同意した。
「こんのすけとも打ち解けられるかもね。…主、明日のお昼ご飯作り俺も手伝うよ!」
「あっ、それはいいです」
「何で!?」
加州の厚意を拒絶しておく。こやつ、自分で自覚していないのか。
鯰尾も「俺も俺も?」と挙手してきたが、君も却下だ。鯰尾は分かっててやってるな。こちらも「間に合ってます」とお断りしておく。
そうだ。お供の狐もおいなりさん食べるの楽しみかな、と鳴狐の方を向く。
「あれ?狐どうした?」
お供の狐は、頬を膨らませ、むくれているように見えた。
「いいえ、何でもございません!」
つん、とそっぽを向かれた。つれない態度にショックを受ける。何でもなくはなさそうだ。
「どうしたの」
今度は鳴狐が彼を呼ぶ。相棒からの問いかけに、今度は応えてくれるか…?
「こんのすけ殿が…」
「うん?」
「こんのすけ殿がちょーっと可愛かったからって…皆様メロメロではございませんか?そりゃあ私めも彼とは仲良くなりたいですけどもっ」
…ほほお、これは。可愛い嫉妬の気配。顔がにやけそうになるのを抑えつつ、鳴狐たちを見守る。
「鳴狐がこんのすけ殿と仲良くなりたいのに、私めは何も言いませんよ。ただ、ちょっと、ほんのちょーっと寂しいですけどね」
狐の言葉を聞き届けた後、そっと狐を撫でる鳴狐。口がもごもごしている。何か喋りかけているようだ。小さすぎて声は聞こえない。「え?」と鳴狐の方を向く狐。「鳴狐、そうなのですか?」
「そう、ですよね!鳴狐のお供は私にしか務まりませんものね!」なにか、お供の狐にとって嬉しい言葉をかけたようだ。
すっかりご機嫌に戻ってくれて審神者も一安心。狐もこの本丸に欠かせない仲間。時にはみんなの癒しになっている。いつか私からも伝えられたらいいな。
「さて、おいなりさんのレシピを調べないと」
タブレットを取り出し、じゅわっとおいなりさんのレシピを調べる。忘れないように、材料も明日の朝に届くようにポチっておく。明日はわが本丸の業務用炊飯器が火を噴くぞ。
油揚げの切り方が分からなかったので、正方形のものを大量購入し、それを斜め半分に切ることにした。三角おいなりさんだ。こんのすけのリクエストで甘すぎない程度に味付けした煮汁に油揚げを投下し、コトコト煮ていく。
その間にご飯を炊き終え、細かく刻んだガリ、黒ゴマを白米に散らして混ぜていく。味見しながら、お酢と砂糖で微調整。
加州と鯰尾が台所の影から恨めしそう(鯰尾は楽しそうだけど)に私の料理の様子を見守っている。戦力外通告したことを根に持っているのか…。これから、油揚げにご飯を詰める作業を手伝ってくれそうな堀川や鳴狐、山姥切君を探しにいこうと思ったが、威圧感を放つ彼らを放って探せる雰囲気ではない。
「……私の指示に従うこと、味噌に執着しないこと、守ってくれる?」
「主!」
二人の顔がぱっと明るくなる。私の横につくと、「この為に手も洗ってあるよ」と手をかざして見せる。準備万端、そして、汚名返上へ。今回は特に、政府のお客さんであるこんのすけをもてなさないといけない。失敗は許されんぞ…となるべく優しい言葉で伝えておく。強く言いすぎて、プレッシャーを与えないよう、マイルドに。
まず、二人にもご飯の具合を味見をしてもらうことにした。「美味しい!」「美味しいです!主!」と頂けたので、これで良し。十分に煮た油揚げを取り出し、少し冷ました後、余計な煮汁をキッチンペーパーでふき取るのも手伝ってもらう。
そして、ご飯を詰める作業。二人は見事、集中して油揚げにご飯を詰めてくれた。最初は二人の様子を見守っていたが、最後の方には私も作業に参加し、一心不乱に詰めることが出来た。加州と鯰尾、これからも一人ずつでなら料理を手伝ってもらおうかな、と料理の腕について考えなおすきっかけとなる。
居間でサラダ、おいなりさんの大皿を机の中央に置き、お昼時だからと集まってきたみんなでお味噌汁と取り皿を運ぶ。どたばたしている中、こんのすけがやってきた。どこから来るのか、毎回不思議である。
「いらっしゃい」
「おじゃましております」
かしこまった言葉を使いつつも、視線は、三角ながらどうにか積みあげたおいなりさんに注がれている。
「もうそろそろ運ぶのも終わるから、ちょっと待ってね」
無言で何度も頷くこんのすけ。お供の狐も、こんのすけに気付いたのかこちらへやってきた。鳴狐は、箸を机に並べている。いつも鳴狐の肩や頭、手のひらにちょこんと座っているのに、彼を介さず、畳を直に歩いてくるのは珍しい。対峙する二匹の狐。可愛い嫉妬について解決したものの、何か物申す訳じゃないよな…と緊張してしまう。
「こんのすけ殿、よくぞいらっしゃいました」
「お呼ばれしております」
「主様のお手製のおいなりさん。私、初めて食べるので楽しみなんです。こんのすけ殿のおかげです~」
「そんなことはございません。…ですが喜んでいただけて私も嬉しいです。おいなりさん、それはもうじゅわっとしているのでしょうねえ…」
「ねえ!じゅわっと、さらに、もっちりしているんでしょうねえ~」
めっちゃ世間話してる!小動物たちの会話の可愛さに震えそうになる。あっ、鳴狐も笑顔で何度も頷いている。みんなも笑顔で頷いている。配膳も終わって、みんな二匹の様子を見ていたようだ。
「…何度も味見したから味はバッチリよ。期待しといて、狐さんたち!…よし、こんのすけ、私の隣にどうぞ」
こんのすけの分の座布団を用意しておいた。隣に座るよう促すと、「では失礼いたします」と座布団の上で足を折りたたむ。みんなで「いただきます」をして、こんのすけの取り皿においなりさんを一個とってやる。このままかぶりつけるのか心配して「半分に分ける?」と聞くも、こんのすけは既においなりさんにかぶりついていた。
「はぐうう~~~!」
歓喜の声が本丸内を駆け巡ったことだろう。それはそれは、伸びのある声であった。
「まさに私のイメージ通り!うんまいです!審神者様!!」
へへへ…。したり顔で笑っておく。私もおいなりさんを大皿からとって、かぶりついてみた。うん、お揚げがじゅんわ~として、ご飯もいい具合にもっちり、そして甘酸っぱい。ガリがポリポリといい歯ごたえ。会心の出来である。
「美味しいですね!主!」
鯰尾も満面の笑みを作っていた。加州も「俺と主の合作…」と美味しさを噛みしめるように呟いている。
「おいなりさん美味しいです、主さん!三人で楽しそうに作ってたの見てましたよ」
「まあね、…これからは一人ずつなら料理を手伝ってもらってもいいかもしれんね」
ぽろっと思った事を口に出せば、二人に「マジで(すか)!?」と飛び上がって驚かれた。
「じゃあ俺!早速夕飯手伝う!」
「いや、ビーフストロガノフだから、今日の夕飯はちょっと…」
加州の立候補に首を振っておく。難しい料理の時はちょっと。今回は本格的にデミグラスソースから作ろうとしているから、加州はお呼びでない。見るからに落ち込まれたのをスルーし、こんのすけの様子を窺う。もう、皿が空っぽになっていた。
「……もう一個食べるか?」
「是非とも。お願いいたします」
おいなりさんをもう一個追加しようとすると、自身の肉球をぽん叩くこんのすけ。
「そういえば、鳴狐様の他にも、狐を従えた刀剣がいると噂で聞いたことがあります」
「へえ」
「なんでも「剣」と呼ばれる刀種で、神々しい程に真っ白な狐を連れているとか…、まあこの本丸で鍛刀するのは無理でしょうね」
「話を振っておいてバッサリ!」
「えぇ、希少価値の高い刀剣男士なので、貴方様の腕では、はい」
「チクショウ」
カネサンでさえ鍛刀出来ていない私では無理なのか。思わず拳を握りしめる。こんのすけを睨みつけるも、おいなりさんに夢中である。「んまんま」の声が漏れているぞ。
政府ちゃんさあ、全刀を…いや、主要な刀だけでも就任何周年かのお祝いでプレゼントしてくれないものだろうか?60振りくらい…。もはや、他力本願。一気に大所帯になるのはさておき、これこそ、こんのすけに掛け合ってなんとかならないのか。…そうなると、やはり胃袋を攻め落とすしかあるまい。油揚げ料理のレシピを習得することに決めた審神者だった。