半壊した神殿の復旧作業が始まった。セインガルド市民が皆一丸となってがれきの撤去や、神殿の修復にあたっている。皆が協力してくれるのも、スタン君のおかげだと思う。
その中にはあの時の緑髪の少女、フィリアちゃんもいて…。彼女も私に気づいたようで、怪我をしているのにも関わらず駆け寄ってこられた。
「そんな慌てなくていいですよ!フィリア…ちゃんですよね?私ナマエっていいます。ケガは大丈夫ですか?」
「えぇ、この通り、ですわ」
復興に参加しているくらい元気らしい。その言葉と共にまさに聖母のように微笑まれ、おもわず拝みそうになった私。
「貴方にも手伝って貰っていたのですね、有難うございます」
この神殿に勤めているとリオン君から聞いていたな。まるで自分の事のように深々と頭を下げるフィリアちゃん。いいっていいってお互い様!と手を振ると、おずおずと視線を上げると私を見つめた。
「あの時はすみません…。助けて頂いたんですよね。お礼も言えずに…」
「あ~いいっていいって…結局、ヤツを止められなかったし、神の眼も…」
「…いいえ」
フィリアちゃんは私の手を握ると、顔を赤くして一生懸命にこう言った。
「私達で協力して、今度こそカイムを倒しましょう」
「…はい」
「その為にも、私もセインガルドのお城でお世話になることにしたんです。…まずは兵士の方々と訓練して、ソーディアンマスターの方々と肩を並べられるようになりませんと」
「あ、じゃあ私と一緒ですね。私もお城で訓練するように、とリオン君に…」
「そうなんですか?あのリオンさんと…。何だか嬉しいですわ」
「一緒に頑張りましょうね」
「えぇ!」
フィリアちゃんはふと、私の向こうを見つめている。肩の辺りというか。
「…それにしても貴方みたいな女性がミクトランのマスターなんて、夢にも思えませんわ…。あっ、すみません!悪く言っているつもりではないんです…!」
顔を赤くしたり青くしたりしている彼女を、背中のミクトランはフン、と鼻で笑う。それだけ。
「もーミク!なんなんですか!」
『そいつの言っている事が理解しかねん』
「折角フィリアちゃんが私みたいな可憐な女の子が貴方みたいな駄剣を使うのが信じられないって言ってるんですよ!?」
『どの口が言っている!まったく…。そいつも呆気にとられているぞ』
「……ナマエさん、ミクトランと打ち解けて…!?」
『……』
**
「私もマスターの素質があると分かった時点で、ヒューゴさんの紹介でミクトランと会ったことがあるんです」
「…もしや、マスターとして認められるかもしれないって?」
「えぇ…。ですが、私ではとても、ミクトランを御しきれなくて…」
『私を御しきれるとでも?…失礼な小娘め』
「はいはい黙って」
なるほど、だからあんな事を呟いたのね。…しかし、なんだ、このやるせない気持ちは。おさげをくるくると指で掬いながらもじもじしているフィリアちゃんを見つめる。心でため息をついた。ミクって奴は、こんな乙女まで拒絶して…。
フィリアちゃんと休憩したことで、こんな事も聞けてしまった。そして、早々に私が愉快な人間だと理解してくれたようで。おかげでフィリアちゃんと距離を縮められた気がするぞ!
「さてと…作業を再開しようかな」
「そうですね。私達も頑張りませんと」
そう言うなり、「司祭様、これはどこに置けばいいんですか?」という声に呼ばれフィリアちゃんは声のほうを向く。ちら、と私を見ると「では」と会釈をして去っていった。
私も力仕事を頑張らなければ。元いた場所に戻ることにした。
**
「あの、私今日頑張ったんで……はいはい、カイム倒す為に頑張りますよ~~」
「『はい』は一回でいい、つべこべ言わず僕に従え」
「はい…」
夕方にくたくたになって、一応約束したので城に行ってみれば、リオン君の鬼の指導が待っていたのだった。
「基礎の剣術は教えてやった。次は応用を交えながらお前とミクトランで晶術の練習をしてもらうぞ」
「ブラックホールとやらは、その先という訳ですか…長い道ですね」
『ブラックホールは完全にコントロール出来ないと危険な術ですからね~』
「え、なにそれ、怖い」
シャルの不穏な一言によりテンションががくっと下がった所で、構えろ、というリオン君のお言葉が降りかかる。
「実戦だと思ってかかって来い。僕は術は使わないが、お前達は使ってもいい。使えるならな」
「えっ、竹刀でなくて真剣…分かりましたよう」
その形相までデジャブ。仕方なく、今まで正座していたのだが、姿勢を崩し、傍らにおいてあったミクを手に取る。立ち上がってリオン君と距離をとった後、ミクを構えた。
リオン君はすでに準備万端。シャルと短剣を格好良く構えている。
息を落ち着かせた後、私から彼に向かって飛び出した。
だが、躊躇しながら振りかぶったところ、軽~く避けられ、しかもその際背中を手で押され床に倒れこむ。むっ、とそのまま彼を振り返り、にらみつける。
リオン君は私を見下しながら、一喝。
「この程度、避けろ!ダガーで刺されていてもおかしくなかったぞ」
「リオン君はそんな事しま…!っ、もう一回お願いします」
い、いじめよくない!とか思ってしまったけど、リオン君は真剣だった。ぐっと考えを押し込め、立ち上がるとミクを構えた。
次はミクを腰の辺りで構えて、槍のように突っ込む。またもやひらりとかわされる。このままでは、勢いあまってうまく動きが取れず、前と同じパターンに。だが、このタイミングで…。ミクに意識を集中させ、一気に簡単な晶術を放つ。どこからともなく氷柱が現れ、リオン君目掛けて落ちていく。
リオン君がそれを避けるタイミングでまた次の氷柱を出現・落下させる。これを続けて、リオン君に私への距離をとらせた。
そのままペースを戻させないように、次の晶術をイメージ…している間に、リオン君がこちらに向かってきた!
慌てて炎やら雷やら降らせてみたものの、全て走り抜けられ、間合いに入られる。彼の一撃を辛うじて受け止めたが、次にはダガーが振り上げられ――。目を見開いて、その様を見つめていた。
そして私はヤバイと思ってしりもちをついた。ギリギリで止めるつもりだったのか、彼はぴたりと短剣を首の辺りで止めていた。
リオン君がふっと息をついた所で私も盛大に息を吐いた。
「あああ…つかれた…」
「問題点を言うぞ」
「頑張ったのに心が折れるじゃないですか…」
「…まず氷の晶術…。落ちた後で水まじりで砕けていたが、あれは雪玉か何かか?」
「だ、だって人を殺す気でなんて無理ですよう…。弱い火や電気ならまだなんとかなりますけど?あれ、絶対本物だったら刺さりますよね!?…ねぇ!?」
今度はリオン君が盛大にため息を吐いたぞ。
「…カイムと戦う時は殺す気で来られるんだぞ、それでもそんな甘ったれた事がいえるのか?」
『やるなら徹底的にやれ!』
「う…、じゃあ術の威力をコントロールする練習をしたいです」
「…分かった」
仕方ない、といったようにリオン君は私を見つめた。