甘い香りに誘われ、台所へ顔を出したところ、ヒューゴさんの後ろ姿が見えた。フリフリエプロンで料理をしているのにギャップを感じる。お顔はダンディだからね。あのエプロン、クリスさんのエプロンだったな。
「おやナマエちゃん、どうしだんだい?」
「いい香りだな~ってきました。ヒューゴさん、おやつを作ってるんですか?」
「あぁ、私が我が家のおやつ担当だからね」
「マジですか」
「うん、まじだよ」
振り返ったヒューゴさんは泡だて器を片手に、ボウルを抱えている。アッ三角頭巾も似合ってます…。コンロをのぞき込むと、カラメルがコトコト火にかけられていた。甘い香りの正体はこれか。
「ミクも香りを感知できる?」
『私に不可能はない』
「いつもながら仰々しいな。でもできるのね。いい香りだよね」
背中におんぶしていたミクが「フン」と鼻を鳴らす。それを眺めて、ヒューゴさんが目を細めた。
「ずいぶんミクトランと仲良くなったね」
「はい、まあ…」
「リオンとも仲良くしてくれているとも聞いたよ」
「いやはや。…リオン君からお聞きしたんですか?」
「いや、シャルティエからね」
しゃべりながらボウルの中身を泡立て、時折カラメルをへらで混ぜ、手際のいいヒューゴさん。おやつ作りに慣れているのが見て取れる。
リオン君がシャルティエさんを離すタイミングがあるんだな。
「週に一回はソーディアンのメンテナンスをするんだ」
「へえ~…あれ?ミクはメンテナンスしなくていいんですか?」
「ミクトランはまだ実戦で使っていないだろう?リオンはモンスターとよく戦っているからね」
「そ、そうでしたか…」
痛い所をつかれた。そうです。私はまだ討伐クエストをこなしたことがない†漆黒のソーディアンマスター†…。肩を落とした私に、ヒューゴさんがあわあわする。
「せかしている訳じゃないよ!戦闘経験がないのは私も同じさ。焦らずにね」
『ヒューゴよ、こいつを甘やかすな。さっさと私を扱うにふさわしい腕前にさせるのだ』
「ちくしょう、ちくしょう……まあ、そんなことより何作ってるんですか?プリンかな」
『そんなことよりとはなんだ!!』という怒号は耳を塞いでスルー。私の言葉に驚いたように目を見開いたヒューゴさん。えっ、私まずい事をいった?
「何故、プリンを知っているんだい…」
「エッそんなプリンって禁忌の食べ物でした…?」
そんなしぶいお声で驚かれたら、私も震えざるをえない。
「いや、セインガルドじゃプリンを知っている方が珍しいからね。つい驚いてしまったよ」
「珍しいおやつだったんですね。そうか…」
急に行き倒れ設定を思い出して、まずい事言ったかしら、と別の意味で震えだしたが、ヒューゴさんは気付いていないようだ。鈍いのか、あえて気付かないふりをしてくれているのか。まあいいか。