※オメガバース
どうしてお前はここにいる。いや、どうして僕がここにいる、が正しいんだろうな。殺してしまった友が「僕」と肩を並べて笑っている。「僕」の側に控えていたマリアンといい、この世界でしか成立しない光景なのだろう。残り滓のような後悔が育たないように、目線を外して、心を殺した。
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「新しい仲間になった子にめちゃくちゃ避けられてるんだけど、どうしたらいいと思う…?」
「安心しろ、僕もだ」
「ほんと?スタン達もどこにもいなくて、あんまり話ができないって言ってたけど、リオンもかあ」
ジューダスという子が仲間になったらしい。らしいというのは、まともに会話したことがないからだ。挨拶しようにも遠目でしか発見できていない体たらく。すぐ逃げられるし、もしかして嫌われてる?初対面で嫌われるもん!?と不安になっていたけれど、スタン達も同じ状態らしい。
ジューダスは、カイルやリアラの元の世界での仲間だと彼らは言っていた。シャイなだけだから気にしないでね、とリアラは言っていたけれど、こうも避けられると地味に傷つく。
「相変わらず、能天気に仲良くなろうとでも考えているのか」
「せめて挨拶はしたいと思ってるだけだよ。能天気って何だよー」
自室でお茶を飲んでいる。穏やかな紅茶の香り
がやけに似合う。たまに見とれてしまうのは内緒だ。絶対笑われる。
「あいつには近づかない方がいい」
「…どうして?」
などと考えていた所で、顔色を変えることなく、やけに不穏な事を言われてしまった。
「……もしかしたら、お前のバース性が反応するかもしれん」
「ええ?もうリオンと番ってるじゃん」
頭にある知識では、アルファと番契約しているオメガは発情する事がないはず…。フェロモンももう出ないはずだし、俺にとっても相手にとっても特に不利益は無いと思うのだけど。
「…とにかく、近づくなよ」
「えー…?もし、近づいちゃったら?」
「二度とあいつと会わせない、かもな」
「ど、どうしちゃったの…」
返事がなくなった。ねー、どういうこと?ねー?としつこく聞くも、ダンマリを決め込まれ続ける。何か隠している顔だ。聞き出したいけど、聞かれるのを嫌な感じだし、どうしたものか。
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焦点のない瞳が僕だけを写していた。
「エミリオ…?」
「…ッ違う!しっかりしろ!」
「エミリオ、すき…」
「!」
僕より少しだけ背の高い体が僕を包む。ナマエの香りがする。巻きつかれた手を解けずにいた。
拒もうとすれば拒めたのに、本気で抵抗できなかった。生きていれば僕に向けられたであろうあの蕩けた目、好意の言葉。
選ばなかったくせに、どうして惹かれてしまうんだろう。
それで満足とばかりにナマエは僕の肩口に顔を埋めて、荒い息のまま動かなくなった。可愛い。愛おしい。生まれる感情が抑えられない。
依然として下半身が熱く、苦しい。ナマエに触りたい。
だが、本能に逆らわなければならない。僕はあの時ナマエを殺したんだーー!
目の前のナマエは僕に与えられるものではない。その資格はない。
「僕はリオンじゃない、ジューダスだッ!!」
ようやくナマエを突き飛ばすことが出来た。勢い余って本棚にぶつかったナマエ、尻餅をつき、当たった衝撃で落ちてきた本にぶつかり、情けない悲鳴をあげる。傷つけてしまった。それでも、手は差し出せない。
「いたた…。んえ…?ジューダス…?」
涙目の瞳が僕を射した。思わず後ずさりした。
「ご、ごめ…ん?俺、なんかやった…?」
彼の放つフェロモンがようやく収まった。媚薬のような甘い香りが引いていく。
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「信じていた奴に裏切られて…殺されでもしたら、相手を憎むに決まってるだろ」
「…ええ?ジューダスの話…?」
「…例えばの話だ」
「あ、そう?…だったらさ、裏切ったやつもそうせざるを得ないなにかがあったかもしれないよなあ」
自分の事だなんて露ほど思っていないだろう。まじめに考えている顔。時折視線を外すのを意識しないと、ずっと見つめていそうだった。
「信用するってことはそれだけ仲良かったんだろ?きっと相手も何か思うところがありそうだよなー。後々さ、裏切った人の事を考えて、たくさん悲しんで、苦しんで、後悔していたら」
うーん、と考える声。上を見上げて、何を想像しているんだろう。
「俺だったら許すと思うけどなあ」
間の抜けた笑顔が焼き付いて離れなかった。
「あ、俺の場合はね!!許さなくてもいいんだよ、その選択は裏切られた人しかできないもんね。ってジューダス?どうしたの、え?帰る?えっ、怒った?……そう、怒ってないのか。なんとまあ唐突だなあ…、まあいいや、こうして話せたし。またね〜」