加州清光は実のところ自信がない。
余裕のある振る舞いを見せるのも、自分の卑屈なところを隠す為。
さすがに最初のように主に嫌われないかと内心でビクビクすることはなくなった。
寧ろ、彼女はきっと自分を蔑ろにすることはないと確信している。
加州はあたたかな審神者のことが好きだった。氷が解けるように最初の頃の不安も解れていき、だんだん体の奥底は彼女を求めるようになった。もっと彼女の傍にいたい、自分だけに笑っていてほしい。
その感情を自覚した時、加州はそこから一歩下がった。無理だよな、と自嘲するように笑った。
審神者は自分を可愛がってくれるけれど、彼女の一番にはなれないんだろうな、と当初から諦めかけた。
彼女の愛は分け隔てなく刀剣に向けられ、特別な刀剣を作るそぶりがない。
だから、自分もその一振り。
その現実に安堵しつつも、自分を嫌悪する。
そのうち、傍でみているだけでいいのだと思うようになる。刀剣の自分は人間の彼女とずっと一緒ではいられない。彼女の世界を守って、結果的に彼女を守る、それでいい。
ある日のこと、何故主の事を諦めるのか?自信満々なやつが話しかけてきて、加州は顔を引きつらせた。
三日月宗近。審神者の初期刀として顕現されたすぐに鍛刀でやってきた天下五剣と称される、うつくしい刀。
加州は三日月は苦手だった。自分が望むものを持っているから。うつくしさ、強さ、余裕。審神者の間では希少な刀といわれているらしく、大事にされる素質も持っている。
生まれ持っているものから違う。刀の身でありながら格差を思い知った。
その上三日月は本人が自称する年の功か分からないが、人をよく知っている。
審神者や刀剣たちが関わる姿を、きれいな穏やかな顔で見つめるのに気づいていた。
調子が悪いのに気づかれまいと戦に出ようものなら引き止められることもあった。孫のように諭されることもあった。
もともと苦手だったのも含め、見透かされているようなあの目が怖かった。
やはり、これも気づかれていた。
「あんたには関係ないでしょ」
「関係?おおありだ。長くから審神者をささえる友であろう?」
「友って…」
そんなものになった覚えはない。加州はこの場から早く逃れたかった。
はっはっはと笑う爺を恨めしく睨みつける。
「さて、お前は早々に主に心身をぶつける事を諦めたが、それがよく、爺にはわからなくてな」
自信に満ち溢れているあんたには分からないだろう!三日月の紡ぐ言葉が自分を煽っているように聞こえる。
「想いをぶつけ、嫌われるのがこわいのか?主はお前を嫌ったりはしないのに」
「そんなの分かってるよ。主はそういう人だ」
「ならば何故?」
三日月は眼を細める。おもわず視線を逸らしそうになったが、ここで負けるわけにはいかないと、目に力を込めた。
だが、言い返そうにも、勝手に無理だろうと諦めている自分しかいなくて。自信がないからと逃げて、想いを伝えず、いつか来る終わりを迎える。主は人間で自分は刀剣、きっと迷惑だろう、なんて理由は後付けのようなものだ。
そこまで考えた時、悔いのないように、と上から言葉がかかる。
いつ間にか俯いていた。見上げると、三日月は笑いながら去っていた。からかわれたのか、それともーー。
主なら、想いを告げても、きっとそれを無碍にしないだろう。真剣に受け止めてくれるのだろう。その上で返事をしてくれるのだろう。
光が見えた気がする。
虚勢をはったっていい。自信のない自分を認めてもらって、受け入れてもらおうなんて甘い考えは捨てよう。
この加州清光は、貴方が好きです。