有里湊「おおきなこえで」

※地学も科学も知らない人が書いています。

 ニュクスへの扉の鎖となっていた有里湊はエリザベスに救われ、かくして現世に戻ってきた。
 自分の封印が解かれたということは、人は死に焦がれることが無くなったのだろうか。

 だが、湊の期待はむなしく散る。世界にはもう人が残っていなかった。日本は海に浸かって、かつて山だったもの、ビル、タワーだったものが小島のようにぷかりと浮いている。月から空中散歩するごとく、地表へゆるゆると降りていく二人。探せば何人か生き残っているのだろう、とエリザベスは言う。彼らは死を望んでいない、生にしがみついている。湊の封印は必要なくなったのだ。
 きっと富士山だった大きな島の浜辺に降り立った時、エリザベスの姿が薄らいでいくのに、湊が思わず手を伸ばす。
「あの扉に辿り着き、封印が解けたと思ったら…このような事になっていました。それでも、貴方様を救いたかった」
 どうやらエリザベスは湊の元へ辿り着くまでに力を使い果たしたようだ。
「私の勝手な願いを、お許しください。貴方様はどうか、生きて下さいませ」
 エリザベスは微笑みながら消えていった。湊は、最期の時のように満ち足りた気持ちがなくなっているのに気付いた。胸にぽっかり穴が開いて、どうしたらいいのか分からない。
 また、ふりだしに戻ったような心地。仲間たちはどうしているのか。湊は沈んだ気持ちのまま、木々が生い茂った島の中心部へ重い足取りで歩み出した。
 温暖な気候に首筋に汗が伝う。冬服のジャケットを脱いで、森の中を歩く。持ち物はプレイヤー、イヤホンのみ。久々に歩いたせいか足がふらつき始めたところで、お得意の「どうでもいいか」で大樹の幹に腰を下ろす。現実逃避するように、プレイヤーから懐かしい曲を聴き始めた。

「湊さん?」
「ええっ、アイギスの知り合いなの?」
「えぇ…夢じゃない、ですよね?」
「うん、夢じゃないよ。現実、現実」

**

「とても昔の話。急に海のかさがあがって、洪水みたいになっちゃったらしくて。たまたま高い所に登っていた人は生きのびて、それから数十年経った」
「……ノアの箱舟みたいだね」
「…うーん、誰かそんなこと言ってたような気がする」