※夢主が死にたがり
転校初日。帰り際、湊は見慣れない女子生徒に呼び出された。返事をする間もなく廊下をかけていく彼女を目で追いかけると、順平に肩を組まれる。「湊、それ告白じゃねーの!?」と呼び出された本人よりテンションが高い順平に苦笑いする湊。
「一目惚れって本当にあんだなあ…。あ、わりぃ、早く行ってやれよ」
教室を送り出され、呼び出し先の屋内プール場の裏に向かった。
学校を一度出て、左へ向かい迷うことなくプール場の裏手へたどり着く。呼び出した本人は湊に気づくと、辺りを見渡す。この辺に誰もいないのを確認したのか、視線を湊に向き直す。その目の奥から仄暗い思いを感じる。湊は思い返す。ストレガとよく似ているのだ。未来に希望を見出せず、人間を呪うような、疑念の目つき。
「……僕に用って?」
彼女の動きを警戒しながら、目的を問うた。
「私」
彼女はただ口を開く。
「あなたが何回も世界をループしてるの知ってるんだけど、もう世界救うのやめてくれないかな」
彼女の口から飛び出た言葉の衝撃に、湊は目を瞬かせる。この子は知っているのか、自分が何度もこの学園に転入し、仲間と共にシャドウを倒した末に、ニュクスを封印していることをーー。
何故それを知っているのか、彼女も何度も同じ世界を巡っているのか問いただしたくなったが、「もう世界を救うな」という言葉に、お互いに分かり合うことが難しいのではないか、と湊に緊張が走る。
「そう警戒しないで……って難しいと思うけど、私はニュクスを放置してもらえればあとはどうでもいいんだよ」
〜中略〜
「なんでかしらないけど、あなたの辿った記憶を知ってるの。例えば……特別課外活動部?召喚器やシャドウについてもあなたと同じ知識を共有している」
「あなたが世界を救うたびに私も高二の始業式からリスタートするの」
「で、世界を救わないならこのループが終わるんじゃないか…とかも思った訳だけど、それよりもまず私、生きてて全然楽しくないわけ」
「家族が大嫌い、学校来て愛想笑いして過ごすのも、その後ずーっと働くのも無理、苦痛が嫌で嫌で仕方ない。だから、あの時が……唯一楽に死ねるチャンスだったのに!!」
・彼女は湊に付き纏う。
「昨日絶対タルタロス行ったでしょ!早く諦めてよぉ…」
「……影時間に象徴化してるのによく分かるね」
「そりゃ放課後嫌ってほど付き纏ってるからね。部活なし、ラーメン屋行っただけでそんな疲れる?普通」
「まあそっか。でも、はがくれのラーメン、美味しかったよね」
「……それは否定しないけども」
・秋のお話
屋上の風も冷たく乾いた風になったものだ。ベンチの隣でふうと息をつく湊に、彼女は苛立ちを隠せない。
「なんでしんどい時なのに学校来るかな…」
「君は分かってくれるかなあって」
「分かるけど……」
彼女は、そもそも有里がシャドウ退治に加わらなければこうはならなかったはずなのにと心の中で毒づく。苦しむと分かって何故、たたかい続けるのだろう。
何度もそう疑問を抱いては、彼女の脳裏にある記憶が浮かぶ。彼の仲間の記憶だ。大切な人の死の真相を知るために、父親や仲間の遺志を継ぐために、有里を守るために、彼らは戦う。
仲間がいたから、湊は彼らと戦い続けるのだ。
「荷物なんて全部捨てたら楽になるのに」
彼女の声は震えていた。それを聞いて、湊はそっとハンカチをさしだす。
「泣きそうになりながら言わなくたって」
「私だって、好きで泣いた訳じゃない!」
強引に指で涙を拭うと、彼女はか細い声で呟いた。
「もう自分を傷つけるのはやめてよ」
「やさしい言葉だ。……君に言われる日がくるなんてね」
湊はハンカチを彼女の顔に押し付けると、立ち上がって景色を見渡す。夕焼け空、回り続ける風車。彼女の方に振り返ると、微笑んでみせた。だが、彼女には逆光になってよく見えない。
「君も大切で、生きていて欲しいって言ったら、笑う?怒る?」
「え……」
・行動を止められず、最後の決着のためタルタロスの頂上へ向かう。
「なんでまた有里だけが死なないといけないの!?」
「僕はいいんだ。君のループが終わるといいけれど」
「私なんていいから……自分のことを優先してよ……お願い、わたし、有里がいないと生きてけないよ……」
「……ごめん」
「私は、有里がいてくれたら生きていけるって思ったのに、なんで……」
・結末
どこかでぱりんとひびく音、埃まみれのCDにヒビが入って割れた。