※雲雀恭弥が夢主の兄で、近親相姦(片思いでも両片思いでもいいと思っている)
兄が家から家出して何日経っても戻ってこなくなった。兄は私を置いて逃げた。裏切られた、と思った。私は家に残って、兄の分まで厳しいしつけを受けることになった。
「雲雀家は並盛屈指の大企業。お前はそれに恥じぬ女に育ちなさい。自由に恋愛することなど許しません。母と同じように、見合いで結婚し、子を設けるのが定めですよ」
家の中で「嫌です」なんて言ったことなかった。言われたこと全部に頷いて暮らしてきたな。呼び出された私は母の言葉に、やはり頷くことしか出来なかった。
兄だった人は地元の不良と化し、並盛中学校を牛耳っているらしい。私も中学に入学する年だ。私立の中学に行かされるかと思ったが、並盛中学校に進学することを言づけられた。「恭弥が家に戻るよう説得してきなさい」と、私に使命を持たせて。いくら不良だからといって跡取り息子だものなあ。父も母も中学に行って説得しようとしたらしいが、門前払いをくらったそうだ。……だから、私に。
――――
「草壁、応接室に誰も近寄らせないように」
「はい」
頭を下げながらリーゼントの男は応接室の扉を静かに閉めた。応接室に残されたのは、兄と妹のみ。
「久しぶり、ナマエ」
「久しぶり……?」
恭弥は慈しむようにナマエを見つめている。謝罪の言葉を期待していたナマエは、彼との距離を詰めて、思い切り頬にビンタした。勿論、恭弥の身体能力なら余裕で避けられたし、手を掴んでやめさせることも出来た。妹から与えられるものを余すことなくこの身に受けるつもりのようだ。
兄さんの美しい顔が赤く腫れている。ナマエは一瞬罪悪感に駆られたが、何故自分が罪の意識を持たねばならぬのか、と気を取り直した。
「謝ってくれると思いました」
「そうだね、迎えに行ってやれなくてすまない」
「迎え……?私が一人で耐えている間も、兄さんは好き勝手やって!逃げたじゃないですか!何を今更!」
「並盛をこの手にするまで時間がかかった。もうお前を一人にさせない」
頬に添えられる兄の手。優しかった兄が思い出されて、唇をかみしめていないと、涙が溢れてしまいそうだった。
「その癖、直ってないんだね」
「……ッ!」
「昔からそうだった。お前は負けず嫌いで、泣くことを嫌っていたね」
慕っていた兄が目の前にいる。自分に優しく接してくれている。それでも、ナマエは兄に身を任せることが出来ない。それ程までに雲雀家の呪縛を長い時間、この身に受けてきた。
「今更…なんなんですか、私は、兄さんが家に戻るよう説得しろと父や母から言付かっているんですよ…?」
「あの家に帰るのは駄目だ。勿論、お前も」
「私はずっと雲雀家にいました。もう、どこにも行けません」
ナマエの目に光が宿っていない。恭弥は家を出てから長く時間をかけてしまったことを悔やんだ。
「私は兄さんがいたから我慢できたんです!あの家にいても、兄さんがいたから……それなのに、何も言わずに出て行った」
「僕はあの家が嫌いだった。自由がなかったからね」
「兄さんは男で、強かったから、一人で出ていけたんです。私は、逃げられなかった。逃げる所もなかった。だから、兄さん戻ってきて!…一人に、しないで……」
恭弥がナマエを労わるように頭を撫でた。その手を振りほどけない程、ナマエは厳しくしつけられた。幼い頃に唯一甘えていた兄がいなくなって、甘えられる相手も消えてしまった。
「僕が戻ったとて、また家に縛り付けられて、家を継ぐ他に道はなくなるだけ。それにナマエはどうなる?」
「…知らぬ相手に嫁いで子を設けろと言われました」
「ほうら、あの家にいると、お前の自由はなくなってしまう」
一緒に我慢しても、ずっと側にいられないのか。そうか、とナマエは諦めてきた。堪えれきれず、涙が溢れてきた。何年振りかの涙だった。
「私、もう嫌です、兄さん、助けて……」
「あぁ、助けてあげられるよ。お前の兄さんならね」
妹を抱きしめる兄。兄にすがる妹。良き兄妹のように見えるが、兄の腹の底は違った。
――――
神様なんていないと思っていた。だけど、家で耐え忍んできたご褒美なのかもしれない…。
「あの家から出たのは、お前が見合いで誰かに嫁ぐと知ったから、あいつとは違う方向から、並盛を支配しただけだよ」
「だったら、一緒に連れて行ってくれればよかったのに」
「…ごめんね」
「……いえ、私こそごめんなさい、足手まといになるから連れて行かなかったんですよね」
「あと言いたかったことがもう一つあるんです」
「何だい?」
「兄さんのせいで友達が出来ません」
「兄さんがいれば別に問題ないでしょ?」
「……」
「僕は、ナマエを愛している」
「どうしたんですか?私も兄さんを愛していますよ」
微笑むナマエを見つめる恭弥。
二人の言葉がかみ合っていないことを指摘する者はこの場に誰もいない。