※義理の弟の結城理がいる夢主と公子という女の子のお話
聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
振り向くと、知らないはずの女の子。「お姉ちゃん」と私を呼ぶ。舞子ちゃんくらい年が離れていたらそう呼ばれることはあるだろうが、明らかに同年代の子である。
ポロニアンモールの噴水の前、バイトが終わるまで理を待っており、手持ち無沙汰だったが、唐突な波乱の予感である。
困惑していると、彼女は「あっ…」と戸惑ったような声を漏らし、「ごめんなさい」と謝られてしまった。
「驚くのも無理ないよね、困らせちゃった…」
彼女が目線を下に向けると、きゅうと心が締め付けられた。謝らないでいいよ、と慌てて手を振る。私の様子を見て、彼女は静かに微笑んだ。
「小さい頃の知り合い?かな?こっちこそ覚えてなくてごめんね」
そう口に出したのは、いつの日か、彼女がそばにいたような気がしたからだ。「…うん、そう。そうなの」と笑みを見せる彼女。どうにも必死に笑おうとしているように見え、さらに心苦しくなる。忘れてしまって申し訳ない気持ちに押しつぶされそうになりながら、名前を聞くことにした。
「そっか、やっぱり…。私の方こそごめんね。名前をもう一度教えてくれるかな?」
「公子だよ」
「公子ちゃん」
「うん」
名前を呼ぶと、彼女が嬉しげな笑顔を見せる。少しだけ元気を取り戻したように思えて、心の中でほっと一息つく。
「えっと、公子ちゃんはこのへんに住んでるのかな」
「うん、そうだよ」
「じゃあ理も交えて遊んだりしたのかな…。あ、理っていうのは私の弟で…」
「…うん、そう。一緒に遊んだね」
本当に懐かしんでいるように、視線を外す公子ちゃん。
「お姉ちゃんに会いたくて、会いに来ちゃった」
「…私たち、今年の春に越してきたんだ。よく探してくれたね」
私服姿の彼女は別の高校に通っているのだろうか。接点がなさすぎて、春を通り越して秋に会うなんて、時間を損した気分だ。
「エレベーターガールの依頼をこなし続けて、ここに案内してもらっただけだよ」
「…うーん、字面だけ聞くと訳わかんないけど、そうなんだね」
「うん!お姉ちゃんなら信じてくれると思った!」
きゅっと両手を握られた。スキンシップの激しい子だ。彼女を覚えていない私としては初対面同然でこうもされると不快だと感じるはずだ。だが、不思議と悪い気はしない。前からそうだったように馴染む掌の感触。やっぱり昔の友達ーー。
「さすが、私のお姉ちゃん」
目を細めてとても嬉しそう。先ほどからにこにこが止まらない公子ちゃんに問いかける。
「…そんなに私、昔から『お姉ちゃんお姉ちゃん』してたかなあ」
昔は快活だった理についていく方だったから、「お姉ちゃん」タイプではなかったはずだ。
だが、公子ちゃんは首を勢いよく縦に振る。
「そうだよ!昔からお姉ちゃんは、お姉ちゃんだもん」
「そうかあ」
「あぁ…」
公子ちゃんは一息つくと、はっきりと告げた。
「お姉ちゃんに会えてよかった」
なんだか今世の別れみたいな言葉。否定して欲しくて、私は思ったことをそっと呟く。
「…また会えるよね?」
「……ん、そうだね、また会おう!」
「わあっ」
抱き寄せられ、暖かな体温に包まれる。
寒い季節に身に染みるなあ、などと思いながら、目から涙がにじんできた。どうしてだろう?
しばらくして抱擁から解放されると、彼女は凛とした笑みを見せていた。快活な彼女らしい笑み。それこそ、安心させるような。
「…公子ちゃん、また会おうね」
黙って頷いたその瞳があんまり優しくて泣いてしまった。