SUSHI

 ミクトランは討たれ、神の眼も破壊された。かくして世に平和が戻りましたとさ。俺はセインガルド城の門の傍でうーんと伸びをした。門番の任に就いているが、暇で暇で仕方ない。これが平和というやつなのだ。しみじみと心の平穏を感じている。

「随分と暢気なもんだな。まぁそこが可愛いんだけど」
「!?えっ…ジョニーさん!?なんでここに…」
「サプライズってやつだよ。お前に会いにきたのさベイビー」

 いつの間にか背後にジョニーさん、後ろからあきらかに不機嫌なリオンと何だか後ずさりしたくなるようなオーラを放っているウッドロウさんが立っていた。気配を消して背後に立つなんて、お茶目な事を思いついたな。ジョニーさんは俺にバラの花を差し出す。よく分からないまま受け取ると、「受け取るな!!」とリオンの怒号が飛んでくる。どうすればよかったんだよ。

「お前もお前だ…。冗談は顔だけにしろ」
「ロマンティックな言葉も囁けないお子様には言われたくないね」
「なッ…!!」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ」

 っていうか、アクアヴェイルの王子に、ファンダリアの王様、うちの客員剣士が一同に介しているこの状況。また何か大変な事が起こったのか?バラを携えたまま、よく分からない言い争いをしている三人をきょろきょろ見渡す。

「おっと、不安にさせちまったか」
「ジョニーさん…、何か大変な事でもあったんですか…?」

 ジョニーさんがおろおろしている俺の肩に手をあてた。その瞬間周りの空気が重くなった気がするが、そんなことより国の一大事かもしれない今の状況だ。ジョニーさんの真剣そうな顔を見つめる。

「なんとな…アクアヴェイルが…」
「えっ、えっ?」
「統一できたんだ」
「…え?」
「そんでもってセインガルドとファンダリアとの国交が回復!どーだ!めでたいだろ~」
「おい、ナマエが固まっているぞ」
「状況を把握するのに時間がかかっているようだね」

 ……。あ、全然世界の危機とかじゃなくて、凄いおめでたい事になったのか。だからこの二人がここにいる訳か。

「…凄いじゃないですか、おめでとうございます!」
「おう、有難う。やっぱりナマエは笑顔でなくちゃ」
「わ、えへへ」

 ジョニーさんが頭を撫でてくれる。お兄さんみたいで何だかこそばゆい。でも、嬉しかった。スキンシップするのは苦手だが、こう人からされると、心を許されているみたいで。

「早く本題に入ったらどうかな」

 そこへウッドロウさんが笑顔を浮かべながら、ジョニーさんに声をかけてきた。ジョニーさんはそれに笑顔を返して。

「…そうだな、今城の中でお祝いのパーティをしてるんだ」
「へえ…、って!主役が抜け出していいんですか!?」
「お色直しって言っておいたぜ」
「いいのかそれ…」

 おもわず敬語も忘れてつっこむ。

「良い訳ないだろう!こうして僕達が追いかけるはめになったんだ」

 さっきから機嫌が悪かったのもそのせいか。ウッドロウさんが何だか刺々しいのもジョニーさんが自由すぎたからか。把握した。

「俺はただナマエと一緒に時間を過ごしたいだけなのになー」
「…ジョニーさん、お気持ちは嬉しいですが、こんな一兵卒にかまけてないで、早くパーティに戻ってください」

 ここはジョニーさんをパーティにもどして、二人の気苦労をなんとかしないと。俺はジョニーさんに向き直ると、まじめに説教をする。

「……ナマエはパーティに興味ないのか?おいしいもんいっぱいあるぞ~?」
「…い、今城を警備中ですから…。ね?皆待ってますよ」
「折角本国の職人呼んで、寿司に天ぷら、すき焼きも用意してんのになぁ~」
「!!」

 アクアヴェイルで口にした思い出の味が蘇る。がくがくと震えだした俺は、もはやNOといえなくなった。

「モノでナマエを釣るな!ジョニー、貴様、ただナマエを傍に侍らせたいだけだろう!!」
「心外だな、俺は純粋にナマエと仲良くなりたいだけ。なぁナマエもそうだろ?」
「は、はい…!俺も…。ちょっとだけパーティ見てみたいですし」
「OK、王にはうまく言っておく。さぁお手をどうぞ、ハニー」
「ナマエ!」
「ナマエ君!」

 ジョニーさんが俺の前でかしずく。そして、うやうやしく手を差し出した。二人が悲痛な顔で叫ぶ中、俺は彼の手を取った。そして、そのまま会場へ走り出す俺とジョニーさんであった。なにこれ、花嫁を奪還する男、みたいな場面が浮かんできた。
 ちなみに、パーティではジョニーさんご指名の兵士として、上手くもぐりこめた。ジョニーさんに「これ食べてみろよ」っておすすめされて、お寿司を食べられた。やっぱり美味しかった。濃厚な「とろ」が口の中でとろける。なんだかジョニーさんに「はい、あーん」みたいな事をさせたような気もするけど、料理の美味しさであまり覚えていない。
 …追いかけてきた二人は、公の場で怒鳴り散らすのはマズイと思ったのか、こちらを刺す様な目線で見るだけだった。…後で何かしら文句を言われそうだが、今は彼との楽しい時間を過ごす事でそれを忘れようとしていたのだった。…彼と結託して、任務ほっぽり出してきた事に怒ってるんだよね?

「ジョニーさん、人がいる場では結構ちゃんとしてるんですね」
「なんだ?俺がいつもちゃらんぽらんみたいな言い方じゃないか」
「そ、そんな事ないです!…いつもより格好良いなと、思いまして」
「…ナマエ」
「はい?」
「そういう事、俺以外の男に言っちゃ駄目だからな」
「はぁ、…あ、おいし、これ」